バルト三国とポーランド・チェコをダッシュで行く その8(最終回)

夕日に映える聖ミクラーシュ教会

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darklogosmall

評論同人誌サークル「暗黒通信団」の雑文書き。
貧乏ノマド独身。英語は苦手。好きな地域は中東の砂漠。元コミケスタッフ。コテコテの理系。自称高等遊民。
詳しくは http://ankokudan.org/d/d.htm?member-j.html

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わずか2週間を8回に引き伸ばした連載も、やっと最後だ。忘れないように書いておきたいが、この強行軍はうまい飛行機スケジュールによるところが大きい。Skyscannerで適当に探したのではこうはいかないのだ。限りある日程を最大有効活用できるよう乗換時間をよく考えたスケジュールを組んでくれたCGAインターナショナル社には大感謝したい。LCC以外なら、きっと次回もここに頼むだろう。

チェコの首都プラハは誰でも知ってる大都市で、観光案内は詳細で、何を書いてもあんまり新しいことにはならないから簡潔にしよう。
写真も今回は本文に合わせることを放棄して、絵的に綺麗なものをチョイスしている。ちなみに写真は結構な数を撮った。

旧市街の広場にある聖ミクラーシュ教会

旧市街の広場にある聖ミクラーシュ教会

芸術家の家の入口にあるオブジェ。凛としてる感じが良かった

芸術家の家の入口にあるオブジェ。凛としてる感じが良かった

マラー・ストラナ広場にある聖ミクラーシュ教会

マラー・ストラナ広場にある聖ミクラーシュ教会

まずは移動手段。翌日に市バスで空港に行くにあたり、荷物が大きいと手荷物料金を取られるのだが、24時間フリーパス券だとこの手荷物料が免除されるという話を聞き、駅でこれを買っておいて、ちょうど空港に行く24時間前に改札を通した。改札してから24時間有効である。地下鉄もバスもトラムも乗れるので、観光するならこれ一択だ。

高校生の頃、ヴァイオリンをギコギコとひいていたことがあって、そのとき使っていた安物の楽器がチェコ製だった。それで音楽の街というイメージが強かったのだが、実際、ウィーンとは直線で300km(東京-名古屋より短い)も離れていないので、とにかく街のあちこちでウィーンばりに「今晩コンサートやるから来ない?」みたいな客引きが徘徊している。プラハ一番のインパクトはどう見てもこの客引きである。もちろんクラシック音楽の範囲なのだが、大衆受けするような有名どころを適当に詰めましたというノンポリ混載コンサートばかりで、芸術というよりは興行でしかない。だいたいなんで東欧でカルメンなんだか。タクシーよりはだいぶ文化の薫りがする客引きなので特に不快ではないのだが、とにかく高頻度で、荷物をひいた旅行者がカレル通りを歩いていれば、5分ごとに何か声を掛けられる。それで本当は少しコンサート的なものを見たいなと思っていたのだが、めまいがして、まぁいいかと放置した。

音楽だけではない。プラハという街は基本的に二度の世界大戦で大被害を受けなかったため、9世紀に建てられたプラハ城から1000年以上の歴史が丸々残っている。

聖ヴィート大聖堂

聖ヴィート大聖堂

プラハ城の中から川方向を見る

プラハ城の中から川方向を見る

プラハ城の拷問室にあった実際の骸骨サマ

プラハ城の拷問室にあった実際の骸骨サマ

もちろん街の主要部は世界遺産だ。歴史が厚いぶん、美術と建築と音楽に関する建造物や展示施設が雑多に乱立していて統一性が薄い。特に建築に至ってはゴシックやバロックからキュビズムまでが街区関係なくそこいらにポンポン生えているので、この混載感がたまらんという人には天国だろう。というよりも戦争による破壊を免れると、こうも雑多な街になるのかと感慨深い。有名なところでは「地球の歩き方」の表紙になっている「ダンシングハウス」とかストラホフ修道院の図書室などはインパクトがある。

ダンシングハウス。バス通りにいきなりある

ダンシングハウス。バス通りにいきなりある

キュビズムの階段で有名な「黒い聖母の家」も手すりを使うと実に昇りにくくて良かった。手すりの曲がり方が気持ち悪いので、体を斜めにして擬似重力勾配を作ると良い。宇宙戦艦ヤマトに出てくる「傾いて登るエレベーター」というのはこんな感じだろう。あれはキュビズムだったのだな。

建築といえばカレル(英語だとチャールズ)橋は有名だ。プラハは南北にヴルタヴァ川というのが流れているがこのドイツ語読みが「モルダウ川」である。スメタナの音楽は哀愁漂う良いメロディだが、実物は特に変わったところもない普通の川で、川幅も中流域の利根川くらいだ。というより、芸術家というのはこういう普通の川に感動するのかと、そこに感動する。カレル橋は14世紀に27歳の建築家が設計した石橋だ。王様から橋を作るよう命令されるなんて名誉この上ないことで、今だったら大学中退で立ち上げたITベンチャーが大成功するようなものだろう。ゴシック様式の橋門にバロック様式の聖人像が乱立していて、ここでも微妙に様式ズレを起こしているが、そんなこといちいち気にしていたら死んでしまう。

カレル橋からヴルタヴァ川を眺める

カレル橋からヴルタヴァ川を眺める

ヴルタヴァ川東岸の建物。光の加減が油絵みたいでかっこよかった

ヴルタヴァ川東岸の建物。光の加減が油絵みたいでかっこよかった

このアート都市プラハだが、共産主義の時代を経ているせいかソ連ぽいものや、現代アートもちらほら見える。謎の人面獣や壁ドン女などが大通りに展示してあって実にいい感じだった。ただ、女性ポスターで有名なミュシャの博物館があるのだが(彼はチェコ東部で生まれた)、有名な代表作「スラブ叙事詩」は数年前に六本木の新美術館で展示されたものの、所有権を持つ本家プラハ市では「展示施設がない」というしょぼい理由で公開されていない。アートの街なら汎用美術館の一つくらいあるだろうと思ったら、そうでもないのは残念だ。それほど貧乏な街にも見えないので、気合いが足りないにちがいない。

カレル橋の聖人像

カレル橋の聖人像

カレル橋の聖人像

カレル橋の聖人像

ネルドヴァ通りを東へ向かって降りていく

ネルドヴァ通りを東へ向かって降りていく

さて、そろそろひどい目にあうターンだが、基本的には「閉まってました」以外のひどい目が存在しない。しかもフリーパス券は実に偉大で、坂だらけの王宮付近もバスはどんどん登ってくれ、昼休みだといって無情に追い返されたストラホフ修道院のリベンジもできてしまった。ティコ・ブラーエとケプラーゆかりの天文台は、どうにもなく閉まっていたが、ミュシャがステンドグラス1枚を作った聖ヴィート大聖堂や、ホラー施設でしかないカフカ博物館は見られたので勝負は五分五分といったところだろう。

カフカ博物館。入口からしてシュール。しかも観光客は華麗にスルー

カフカ博物館。入口からしてシュール。しかも観光客は華麗にスルー

謎の人面獣(Nagypalさんという人の作品。2018年作)

謎の人面獣(Nagypalさんという人の作品。2018年作)

共産主義博物館やアップル博物館はそもそも時間がなくて無理だった。公共交通機関を極限まで駆使した観光で、サーモン寿司一皿以外何も食べないまま夜になってしまったのだが、既に疲れ切っていて、どうせ翌日、空港ラウンジでなにか食べようと投げやりになって寝てしまった。

寿司屋「大石」。普通にサーモンだった

寿司屋「大石」。普通にサーモンだった

それで翌朝、空腹を耐えて無理やり起きて、雨の中を市バスに乗り、空港に向かったのだったが、果たしてラウンジでなにか食べようとしたらダイナースクラブのカードを持ってき忘れて門前払い。おかげでしょぼいエコノミークラスの機内食とフライトアテンダントの厳しい視線下の無限ドリンクだけで、成田までを耐え抜くことになったのだった……。おわり。ご清聴ありがとうございました。