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評論同人誌サークル「暗黒通信団」の雑文書き。
貧乏ノマド独身。英語は苦手。好きな地域は中東の砂漠。元コミケスタッフ。コテコテの理系。自称高等遊民。
詳しくは http://ankokudan.org/d/d.htm?member-j.html
リガの観光は爆速で終わった。朝7時前に起きてスーパーの残りものを3分でほおばり、オリエンテーリング開始。どんより曇っているが雨まではいかない微妙な空のもと、競歩選手のように元気に腕を振って歩く。首都といっても小さな街だから駅前のホステルから旧市街までは徒歩10分くらいである。旧市街全部をゆっくり見てまわれば丸一日くらいかかるだろうが、弾丸ツアーにそんな余裕はない。10倍圧縮し、だいたい1時間で終わらせる。人生、これ濃縮ドリンクなり。時間があれば色々じっくり見られるのに、と残念な限りではあるが、写真は前回載せたので勘弁してほしい。
その1時間が過ぎ去ろう頃にはもう小雨が降ってきたので、急いで宿に戻り、5分くらいで荷作りして朝9:30発のバスにすべりこんだ。
雨雲に追われるようにして、すぐさま隣国リトアニアの首都ヴィルニュスへ向かう。なおバスの中では相変わらず仕事しまくりだ。年末年始すらない部署なので24時間いつでも仕事メールが来る。ロシア語のバス案内と、牧草地とか森とか古風な家の風景は実に良い雰囲気なのだが、たぶん鬼の形相でスライドやら文書を作っていたことだろう。
ここからが今回のメイン。無事14時前にはヴィルニュスのバスターミナルに着いた。こちらも首都の中央駅隣接のターミナルだが、リガよりさらに小さく、ロータリーが一つあるだけだ。ただし電光掲示板完備で天気快晴。そして騒ぎ立てるタクシー屋がいない。
バルト三国は総じて民度が高いというか、アラブ諸国のごとく、バスを降りた瞬間から餌に群がる金魚のようなタクシーが湧いてこない。タクシーに囲まれないだけでもハッピーだが、代わりに、駅前にはレンタサイクルがあったりして、文化都市の薫りを感じる。これなら女子でも一人旅できるだろう。
観光タイムはこの午後しかないので、まずはバスの1日券を買い、荷物を宿におろすべく、トラムと16番バスを乗り継いで宿に向かう。トラムもこの1日券で乗れるのだ、ラッキー。通りを一本間違えたが、だいたいロスタイム2分程度で無事到着できた。一軒家のゲストハウスで、内装は結構綺麗である。この手のゲストハウスでは午後早めからチェックインする人など少ないので、スタッフからしてどこにいるか分からず、玄関も鍵がかかっていた。日本ではないので、おとなしく待っていたりはしない。とりあえず軍事行動あるのみだ。機動力を5に上げて、勝手口から侵入し、真っ暗なフロントらしき場所で道場破りの声を上げていると、老婆が出てきてやっとチェックインができた。今や伝承者の少ない人差し指打法でぽちぽちとパソコンのキーを打つ老婆に、急いでいるんだよーと発破をかけて、やっと部屋に荷物を置かせてもらい、そのまま出撃。一日乗車券は有効に使わねばね。なお8ベッドの部屋のうち4ベットが埋まっていたが、自分含めて滞在者3人は日本人だった。一人はプータローで旅してる典型的若者バックパッカー、もう一人はライターで、旅しながら旅先のカフェで原稿を書いてるという自由人だ。そういう人生も悪くないと思う。良いもの書けそう。
当地で絶対に外せないポイントは「聖ペテロ・パウロ教会」だ。乗ってきた16番バスで直接行ける。バスは15分間隔。Googlemap様大活躍。写真でもその美しさが分かろうが、ケーキのデコレーションのような真っ白の彫り物で埋め尽くされた、息をのむほど精緻な異空間である。
一つとして同じキャラがいないという凝りようで、まさにファンタジーのお城。誰もいない白亜の建物に光が射し込んでくる様子は何ともセーブポイントじみている。ここに来て本当によかった、こんな世界なら喜んでガチャ回すよ、明日のプレイはここからスタートしたい、と感涙する。
実は、このあたりの旧市街はまるごと「ヴィルニュスの歴史地区」として世界遺産に入っているが、この教会単品でも十分に世界遺産審査をクリアできるだろう。行ったら絶対見るべし。自分的にはかなり気に入ったので熱く語らせてもらった。
ヴィリニュス大聖堂、夜明けの門、生神女就寝大聖堂、KGB博物館とか猫カフェとか、当地の見どころは色々あるが、「ウジュピス共和国」だけは書いておこう。聖ペテロ・パウロ教会からバスで少し旧市街側に戻ると行ける。ここはもともとあまり治安の良くなかった地区なのだが、なんちゃって独立国を宣言し、通りの壁には各国語で「憲法」が貼られている。「A dog has the right to be a dog」(犬は犬たる権利がある:12条)あたりは有名か。
これくらいやればアート地区として名を馳せ、立派にヴィリニュスの観光地となった。なお、この憲法、ヘブライ語やベラルーシ語やタイ語のようなものまであるが、日本語版はない。こういうネタに日本が絡めていないのは大変悲しいことだ。なんちゃって共和国なので国境警備兵もいないし、のどかなものである。地区にかかるいくつかの橋に、共和国入り口の橋に看板が立っているが、民度の低い旅人(主にカップル)のせいで橋には大量の鍵(永遠に別れたくないので橋に鍵をかけてキーを分かち合ったりするらしい。橋にしてみればいい迷惑だろう)がかけられ、看板も散々に色々貼られて、見るかげもなくなっていた。ネタを破壊するなって。
共和国の辺縁部にはLittleFreeLibrary.orgと書かれた小さな図書館箱があった。人々がそこから本を持っていき、読んだ本をそこへ投入するのである。東京だと地下鉄根津駅の「メトロ文庫」などが有名か。後で調べると事務局は米国ミネアポリスの近くらしい。東京にも2箇所あるようだ。本はといえば、謎の「大人向け」雑誌が3冊入っていただけだった。本当に民度低いなぁ。
教会だらけの旧市街を歩き、駅前のロータリーにあるマクドナルドで休憩してから、また16番バスで宿に戻った。なおこのあたりのマクドナルドは妙に進んでいて、等身大もある大きなタッチパネルで注文も支払いもできるのだが、進みすぎているせいか誰も使わず、人々はタッチパネルを無視して20分もカウンタに並んでいるのがなんとも言えない。待つことをいとわないソ連時代の悪癖が残っているのか、実際筆者は使って10人抜きできたのだが。
少し時間があったので夜7時半に徒歩でRimiというチェーンのスーパー(SuperではなくてHyper marketを自称している)に買い出しに行った。ナッツとかパンとかバナナとかそういうものである。
旅行記を書くと現地の食べ物を紹介してくれという人がいるが、レストランでくつろぐ時間とお金はないし、スーパーで売っているものこそ現地人の食べているものである。そして東欧圏といえどもヨーロッパであるのだから、スーパーの品揃えなど日本とそれほど変わらない。翌朝は5時おきでワルシャワ行き始発バス必須なので、バナナ3本を食べて、さっさと寝た。
なお今回はあまり酷い目にあっていないので、翌日に遭った酷い目を書いておく。無事に始発バスに乗ったのは良いが、片側1車線の高速道路で事故渋滞に巻き込まれ、30分停車。チョコレートが配られても乗客一同キレ気味のところ、救急車とパトカーが豪速で通り過ぎたあと、なんとロングサイズのバスが2車線路で驚異の転回行動に出たのだった。切り返し約20回。一番厳しい直角付近では10cmくらいのバックで切り返していた。凄い運転スキルを見て乗客一同からは拍手が起き、スマホで撮りまくり。……そして遠回りかつ一般道の通行を余儀なくされた結果、ワルシャワの観光時間は完全に消えたのだった。