tabinoteワタベです。2014年6月のキナバル登山の模様をしばらくお伝えします。
・その1:上陸編
・その2:徘徊編
・その3:とりつき編
・その4:登頂編
・その5:最終回
キナバル公園
日本からはるか4,000km離れたマレーシア、ボルネオ島のキナバル公園。
夕方の公園ゲートは照明が灯っており、「World Heritage」の看板が光っている。
小雨模様の向こうに見えるのは黒っぽい巨大な山裾と、山塊から白く流れる細い無数の水。
上は灰色に渦巻く雲に遮られて見えないが、晴れていれば鬼ヶ島のように尖った山頂が見えるはず。
明日か明後日、あそこを登るのか。
山裾の角度は目視で60度くらいに見える、とんでもなく巨大な山裾。
準備してきたつもりだったが、実際の目で見るのとは大違い。
あれれ、もしかしてとんでもないところに来てしまったのでは…。
きっかけ
ひょんなことから、エアアジアのクアラルンプール(KUL)行きチケットを入手する機会に恵まれたのは2014年の年明けまもない頃…。
何を隠そう私、tabinoteメンバーでありながら国際線のエアアジアXは未体験。もちろんマレーシアも行ったことが無かった。肌寒い中図書館に行き、6月の南国を想像しながらマレーシアのガイドブックを借りた。
まさか肌寒い高地への旅になるとは…。
マレーシア観光の王道といえば、クアラルンプール(KUL)かマラッカ、ペナン島あたり。
マラッカは金子光晴に遡る個人旅行の王道。マラッカ海峡の夕陽といえば何か郷愁をさそうものがある。クアラルンプールのLCC専用ターミナルからバスで直行でき、アクセスも容易。一方ペナン島は高級リゾートで、1人移動の私には今回縁が無い模様。
こりゃクアラルンプール→マラッカ→シンガポールで決まりかな、ついでに名物の福建麺でも食べて…と思ったが、何か盛り上がらない。
何かもっと、非日常の体験がほしい。
そこで目に付いたのが海を隔てたボルネオ島。マレーシアの中ではマレー半島側よりもむしろ広大だが、リゾート&秘境というイメージが強すぎるせいかややマイナー。しかし、ボルネオ島最大の都市コタ・キナバルへはマレーシア航空の直行便もあり、意外に身近ということを以前調べたセンポルナの記事で知っていた。
(画像:Google)
クアラルンプールからコタ・キナバルまでは2時間半、エアアジアなら数千円程度。面白そうだ。
ボルネオ島といえばキナバル山。山を登って、サンダカンの日本人墓地でも拝んで帰ろう…。
キナバル山はマレーシアの最高峰、標高4,095m。
地殻変動によって生まれた山で、火山ではない。
頂上は鬼ヶ島のようなギザギザの造形で、山頂からは脅威の絶景が見られることで知られる。
(画像:tabinoteが旅程調査を担当した「一度は行ってみたい世界の絶景」(洋泉社)より、キナバル山のページ)
2012年にネパールに行って以来密かに登山欲が高まっていた私。
次は、割に標高がありチャレンジングな山を登ってみたいと思っていたので、キナバル山はまさにぴったり。
実はこの時まで富士山も登ったことがなかったんだけど。
こうして、出たとこ勝負で行き先が決まった。
一日目:コタ・キナバルへ!
6月某日、深夜便にて羽田からクアラルンプールへ。目指すはボルネオ島最大の都市、コタ・キナバル。
エアアジアのオプション・ESO(Empty Seat Option;隣が空席の場合シートを占有できる権利)が当選したおかげで快適な搭乗。
ESOは僅か千円か2千円程度だが疲労が全然違うので、今回のように体力温存したい場合は申し込んだ方がいいと思う。
(画像:エアアジア)
翌朝、クアラルンプール国際空港の第2ターミナル(KLIA2)に到着。
かつてエアアジアの発着はLCCTという簡素な施設だったが、第一ターミナル近くに移転。LCCT時代はバス移動だったところ、鉄道が乗り入れ市街までノンストップで就航と非常に便利になった。中身もショッピングモールやフードコートを備えた近代的な施設に生まれ変わっており、空港だけで何時間もすごせるほど。フードコートのレベルもすばらしかった。
(参照:緊急レポート「KLIA2が生まれ変わった!」)
KLIA2をたっぷり冷やかして、構内でマレーシアの携帯会社DiGIのSIMカードを入手。容量無制限で20リンギットだったかな?これでネットには不自由しない。
(画像:tabinote)
続いて国内線の乗り継ぎ。ボルネオ島・コタ・キナバル行きもやはりエアアジア。
KLIA2の国内線ゲートはまだつくりかけで、ところどころに配線むき出しの空間が見えた。
(画像:tabinote)
エアアジアのクアラルンプール-コタ・キナバル線は安く、往復で5千円ほど。
ただし距離は1,600kmと東京-沖縄間くらいあり、所要時間も2時間かかる。
定刻通りのフライトで、午後1時にコタ・キナバル国際空港へ。
さて、いそいでキナバル山の登山べースであるキナバル公園に移動しなければならない。
なぜなら今回は日帰りで登ろうという計画だからだ。
キナバル山とは? 〜登山計画
キナバル登山についてガイドブックや旅行記などを見てみたところ、おおむね以下のような概要だった。
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・多様な生態系から世界自然遺産に認定されており、勝手に登ることは出来ない。入山許可の取得とガイド帯同が条件(ちなみに富士山は世界文化遺産)
・旅程は一泊二日、もしくは二泊三日、おおよそ八合目付近となる標高3,273m地点の山小屋村(ラバン・ラタ;Laban Rata)に宿泊し翌朝ご来光を見るのが一般的
・入山者数はおよそ140名/日程度に制限されている(ソースによって前後あり)。この制限はラバン・ラタのベッド数によるもの
・ラバン・ラタの運営は高級リゾートホテルグループのステラ(Sutera Sanctuary Lodges)にほぼ独占されている(※)。つまり、日本でいうと富士山の山小屋を星野リゾートとか帝国ホテルがやっているようなもの。そのため宿泊料金が高い
・高額な山小屋料金を払わずに済む方法として日帰り登山が可能だが、諸条件あり
※ステラ以外が運営する小屋もあるがいずれにせよ高い
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入山許可はロッジの空きベッドがなければおりない。つまりベッドを先に押さえないと登ることが出来ない。
高額だというラバン・ラタの料金はどのくらいなのか。ステラのサイトを見てみると、そもそも二泊以上でないと予約が出来ず、どの日もすべてソールドアウト(現時点では予約フォーム自体に行けないようになっている)。
どうも旅行代理店が空きベッドを速攻おさえてしまうらしく、そもそもフリーの個人客がベッドをおさえることができない。現地に飛んで直接ステラの事務所に出向いたりすれば空きがあるらしいが、渡航日程に合わせて都合良く空きが出るとは限らない(もちろんそういったリアルタイムな空き情報はサイトに更新されない)。
いろいろ調べてみると、どうやらツアーに組み込まれていないラバン・ラタの素の宿泊料金は一泊3万円程度らしい。高いよ!
高額な宿泊料にもかかわらず、入場者制限のためか小屋は常に満室。こうした事情から、日本からの登山者はパッケージツアーを経由するケースがほとんどかと推測される。
日本発着のパッケージツアー(マレーシア航空直行便使用)はおよそ16万円から。高いよ!
まあ、これは参考で調べただけで、参加する気は無かった(そもそも私はエアアジアで行くのであてはまらない)。
やる気満々で調べたのは現地ツアー。これなら安いだろうと思ったら…。
以下の代理店では1人参加が1,480RM、日本円にして4万5千円!高いよ!
2D1N MOUNT KINABALU CLIMB
(画像:Amazing Borneo Tours)
やはりラバン・ラタの料金がネックなのか、ツアー価格も高止まり。
実はキナバル山の登山費用は以下のとおりステラのサイトで明示されている。
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・パーミッション:100マレーシアリンギット(RM;1RM=30円として3千円くらい)
・公園入園料:15RM
・ガイド:127.5RM(人数割り)
・登山保険:14RM(死亡7RM+障害7RM)
・登頂証明書:任意、10RM(白黒は1RM)
・登山口・ティンポポン(Timpohonゲート)までの送迎:33RM(人数割り)
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全部合わせて、1人参加の場合約300RM、だいたい9千円程度の計算となる。
つまり、登山の実費が9千円でラバン・ラタが3万円、そうすると現地ツアー会社の取り分はわずかに6千円程度?…、意外に良心的という感じがしなくもない。
ラバン・ラタの宿泊費を考えると4万5千円の現地ツアーはそれほど高くないともいえるし、高級リゾートならそのくらいするよねーと思える方はいいが、私は4万5千円もあったら香港に3回は行けるな・・・と思ってしまう貧乏性。
必然的に宿泊代のかからない方法、日帰り登山を検討しはじめた。
宿泊する通常の登山についてはそれなりに情報があったものの、日帰り登山に関する情報は非常に限られていた。そもそもチャレンジした人があまり居ないのだろう。
そんな中で、世界攻略者さんのサイトには大変お世話になったことをここに記しておきます。
「キナバル山日帰りトレック、やれんのか!」
キナバル山日帰り登頂については外国人のサイトもいくつかヒットしたものの、景色がサイコーとか、とにかく苦しかったとか、音楽が私を奮い立たせたとか、ホントにどーでもいい情報ばかり。
世界攻略者さんのサイトは極めて実践的かつ具体的で、日帰りだけで無く登山全体の話も含めこれだけ詳しいキナバル情報はありませんでした。
この場を借りてお礼申し上げます…。
さて、4,000mの山に日帰りなんてできるの?と思うが、富士山でさえマラソンで登る人がいるので不可能では無い。
実際キナバル山にも富士山と同じく登山マラソンがあり、登山道は整備されている。
一説にはキナバルマラソンは「世界一過酷な山岳マラソン」と呼ばれているとか…(日本人も多数入賞しています)。
(画像:Climbathon、サバ州観光局)
日帰りのメリットはパーミッションやガイドなどの実費9千円程度の費用で済んでしまうこと。安い!
一方で当然リスクもあり、種々の情報を総合すると、日帰り登山の概要は以下の通りだった。
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・日帰り登頂可能なのは1日4グループまで(グループサイズ不明、2名/グループとの情報もあり、一方で10名程度登っていたとの記述もあり錯綜。管理人のサジ加減次第という話も)。グループ制限を超えるとその日は登れない
・日帰りも宿泊もコースは共通だが、時間制限がある。登山口のティンポポンゲート(Timpohon;標高1,866m)を7時〜7時半にスタート。時間制限は2箇所で、ラバン・ラタ(3,273m)に午前10時、次に最高地点のロウズ・ピーク(Low’s Peak;4,095m)が13時。登頂後、出発地点のティンポポンゲートまで17:30には戻る必要あり。したがって登頂までの制限時間は5時間半、13時に下山した場合下りの制限時間が4時間半。
・非常な健脚が必要。旅行ガイド「ロンリープラネット」によると「アルプスを鼻くそほじりながら登るような奴でも数日階段を使えなくなる」。
・同じくロンプラによると「日帰り登頂はそのうち中止になるかも、やるなら今のうち」。
・早朝スタートなため登山前日にキナバル公園近辺泊の必要あり。麓での滞在でほとんど高所順応ができないため、高山病リスクあり。
・悪天候でスタート後に中止となるリスクあり。
・ここまで苦労する&リスクが多いのに、朝から登り始めるのでご来光は見れない。
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渡航しても予約が4グループ入っていたらその日は登れず、空きが出る日を待つことになる。
ここでも裏技的に「日帰り登頂ツアー」を催している旅行代理店があり、そこを通せば天候が許す限り確実に許可はとれるらしい。
費用を見てみると1人参加780RM(2万4千円…)。た、高いよ!
しかも唯一日帰りツアーを受け付けていた代理店はその時点で募集を中止していた。
問い合わせてみたところ、直接許可を出す公園の管理人がチャレンジャーの面構えを見て判断するようになったとのこと。
結局、不確実な現地直接申し込みが唯一の方法となった。
(今見たら日帰りツアーを再開していた。価格は980RM!)
(画像:Amazing Borneo Tours)
さて、登頂成功のためには、
・運良く滞在中に日帰り登山枠の空きがあり、
・天候に恵まれ、
・高山病が出ず、
・体力が保って制限時間内に登れる
という条件がすべてそろわなければならない。
チャレンジする人が少ないのも無理はない。
一日目:キナバル公園へ!
13時。空港に到着早々、超速攻の移動となった。
この日は木曜日、帰国予定は月曜日。
月曜に登ると帰りのフライトが間に合わないので、山登りできる日は金・土・日のわずか3日間。
空港から登山口のキナバル公園まではおよそ90km、クルマで2時間かかる。登山管理事務所はだいたい午後5時に閉まるとのことなので、およそ4時間でキナバル公園に行き、事務所が開いているうちに滑り込んで、登頂申し込みをしなければならない。
今日中に着けば定員の空き次第で、明日金曜の登頂も可能だが、今日を逃して明日の申し込みになってしまうと、土・日の2日間しかチャンスがない。
本来なら空港からタクシーをチャーターしてキナバル公園までぶっとばすのが早いのだが、お金がもったいないので乗り合いバスで行くことにした。
それで間に合わなかったら元も子もないのだが…、結果的に間に合って良かった。
空港からのタクシーはプリペイド・ゾーン制の料金で安心。カウンターでキナバル公園行きの乗り合いバスに乗りたい旨(”Padang Bus Terminal, to Kinabalu Park”)を係員に告げると、ドライバーを手配してくれた。
コタ・キナバル空港は市街に近く、タクシーなら20分くらいで中心部に着いてしまう。はたしてバスターミナルは市の中心からほど近いあたりにあった。
(画像:Google)
乗り合いバスとは8人乗りくらいのワゴン。特に時刻表などはなく、お客がいっぱいになったら出発するようだ。料金は20リンギット(RM;およそ600円)だった。
(参考:バス料金)http://beautifulkk.com/content/kk-bus-terminals
私が乗ったとたん満席になり、ワゴンは出発した。待ち時間無しで移動ができたのはとても運が良かったと思う。
(画像:tabinote)
ワゴンはアジア特有の荒っぽい運転で…というようなことは全く無く、急ブレーキや急発進もなし。路上もクラクションの音が聞こえず、逆送や割り込みも皆無。こんな日本並みに交通マナーがいい都市は初めてだ。
おかげでキナバル公園への山道も全く酔わず、2時間かけてキナバル公園に到着。常に小雨&霧の立ちこめる悪天候で、山の姿は全く見えない。
公園に着いた頃、バスの乗客は私一人だった。
もう夕方4時をまわって薄暗いし、小雨も降っている。
そんな中、麓から60度くらいの角度でそびえたつ巨大な山裾と、無数の細い滝の流れ。
明日どころか、晴れてたとしてもこんなところ登れるの?ってくらい急角度な山裾。
あまりに巨大な姿に怖じ気づいてしまった。
(続く)