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評論同人誌サークル「暗黒通信団」の雑文書き。
貧乏ノマド独身。英語は苦手。好きな地域は中東の砂漠。元コミケスタッフ。コテコテの理系。自称高等遊民。
詳しくは http://ankokudan.org/d/d.htm?member-j.html
●9月くらいに僅か1日であったが、用事でアテネに行った。個人的なことをいえば、アテネのイメージは「聖闘士星矢」で形成されている。何せ本連載を読んでいた世代だ。街にはきっと、しょぼい村と聖域しかなく、聖域といえば石畳の一本道と、どうやって建てたんだと言わんばかりの神殿がたくさんあるのだ。片手で岩を砕くような超人がうじゃうじゃいて、ときどき拳で闘っている。ギリシャ経済が悪いと聞けば、「聖闘士が内紛しててろくに政治が回ってないからだろ」と真顔で答えてしまって、我に返って「なんだよそれ」と苦笑いする。ちなみに最近は「聖闘士星矢」の外伝として「セインティア翔」というマンガが連載中だが、これはかなり良い。本家より良いのではないか。はやくアニメ完成しないかな。
「聖闘士星矢」なんて知らないという人も、ギリシャといえば、だいたいは暖かい地中海沿岸で、風光明媚な断崖絶壁にぽつぽつと神殿が建ってるような、涸れた感じのユートピアを思い浮かべるのではないか。実際、それに近いものはあるらしい。女人禁制の修道院「アトス山」である。検索すると色々出てくるが、半年前に予約が必要とかでちょっと急な訪問では無理だ。
では実際のところどうなのか。「エレフテリオス・ヴェニゼロス」といういかにもギリシャな名前の空港だ。ちなみにここのラウンジはまぁまぁ良い。モスクワ程食べ放題ではなかったが、オリーブと野菜ドリンクとパンとバナナとりんごとキウイがあった。りんごは丸かじりすればいいが、皮が剥かれていないキウイなんてどうやって食うのだ。
22時着の飛行機でクタクタになってイミグレを抜けると、モワァとした湿っぽい暑さが襲ってきた。なんか風光明媚な感じじゃないぞ。市内までは地下鉄があるのだが22:35が終電だといって楽勝だと思っていたら、時刻管理がいい加減で22:30にはもう終電が行ってしまった。こういうときは係員に逆ギレするのが常だ。すると「バスがあるから」といって回避される。6ユーロのバスで市内に向かうことになった。
ギリシャはギリシャ語である。普通の国なら現地語と英語が書かれるものだが、ギリシャ文字は誰でも読めるので気合で読めといわんばかりで英語表記が見えない。同じように(ほぼ)対応がつくキリル文字でもちゃんと英訳されるのにな(ぼそ
夜中の零時すぎに終点らしき広場でバスを降ろされて少し困った。この広場どこ?方向は?人々は、おそらく現地人らしく、さっさと散っていってしまった。まぁ殺されるような雰囲気ではないし、ゆっくり行くかと思って、アルキカタの地図を見ながら適当に地名を連呼した。ほどなくヤク中ぽいヤンキーから「あっちだよ」という言質を引き出してサンクスを言う。いつものパターンだ。成長しないなぁ。
でかい荷物を引きずってゆるい坂を降りていくと、何かギリシャ彫刻ぽいものが飾ってある博物館ぽいものがあったりして、異国感が出ている。しかし目指す格安宿を見つけるのは簡単ではなかった。なんせ、いくら金曜や土曜と言っても、夜中になっても道路をディスコ化し、若者たちが大声で歌って踊っているのだ。渋谷や六本木でもこうはならない。これでは経済破綻するし、難しい顔をしたドイツ人が援助を渋るのも分かる気がする。で、その踊る連中が邪魔すぎて歩けない。楽しんでいるところを邪魔するのも悪い=酔った連中に絡まれるのも嫌=だから、真夜中にさらに日陰者となって目立たないように宿を探す。何人かに聞けば、宿はみつかった。しかし壁に宿の名前が小さく描いてあるだけで、とても知らずに見つけられるものではない。おまえら、どうしてそんなに働く気がないんだ! 部屋は部屋で、エアコンは壊れているし、クレジットカードのシステムが腐っていて二重支払いが発生し、翌日現金で半分返すという手書きの証文をもらう羽目になった。結局シャワーをして横になったのは午前3時くらい。外のディスコは、全く衰えることなく大音量でがなりたてていた。
●ギリシャは時間にルーズだ。なんせ始発の地下鉄ですら(7分も)遅れる。朝一番で観光しないと色々間に合わないという無理な計画のため、最寄りの地下鉄駅まで歩き、始発に間に合わせたのに、肝心の列車が全く来ない。というか、まさに始発列車がくるというのにチケット売り場がしまっていて切符を買えない。全方位にやる気がまったくない。これで抜き打ち検査で罰金など取られたらキれるしかない。
その上、蒸し暑い。そして物価は結構高い。水1.5Lで1ユーロとかをとっていく。値下げしようにも交渉の余地もない。ただしスプライトは相対的に安かった。1.5Lでも1.6ユーロくらいで少しはオトク感がある。結局チョイスが水より甘ったるいドリンクになり、ますます喉が渇く。要するに水だけが高いのかもしれないのだけど、どのみち値段が凶悪だから脱水気味で頑張るしかない。加えてアテネの道は狭く石畳で、ゴミはあまりないものの、一方通行で大渋滞している。
信号間隔が短くて渡ろうとしてもすぐに赤になるし、赤になったら残存歩行者など無視でクルマが突進してくるから危なくて仕方ない。何とかしてくれ聖闘士。教皇、お前の責任だ。
アテネの遺跡には基本的には入場料が必要だが、共通チケットでだいたい全て回れる。ただし、(遺跡はうじゃうじゃあるが)倒壊が激しくて、どれこれも、どこかしらが壊れている。個人的にいえば、少し時代が異なるものの、エフェソスやチュニスのほうが綺麗ではなかろうか。
蒸し暑い中、睡眠不足でズンズン歩くと、衛兵交代式をやっていたり、道に普通にオリーブが生えていて、そこはギリシャな感じだ。
ソクラテスたちが哲学の議論をしたという「古代のアゴラ」は、実際には平地にある。アゴラの訳は普通「広場」であるが、実際には(半壊した)建築物が乱立し、しかもそれぞれの規模は結構でかい。現代的にいえば大学のゼミ室みたいなものであろう。となると哲学者の皆様も、広場で自由闊達に議論しましたというよりは、ゼミ室にこもってホワイトボードを前に議論しましたのほうが実態に近く、研究者は二千年たっても相変わらず引き籠もりであることが分かる。
アクロポリス神殿はアテネ観光一番のハイライトだ。神殿と銘打っているが、実際には崖の上にたっている城塞である。ふもとから石段を登っていくと崖の上が広場になっていて、そこに色々建っているわけだ。
現在のところ全面修復中とのことで、ほぼ解体されてしまい、お世辞にもまともな写真が撮れない。この城塞から下を見下ろすと、円形劇場とかが見えて楽しい。
ついでにアテネ市が丘と平地からなる街であることがよく分かる。
遺物財宝の類は新アクリポリス博物館に移されて色々と展示してある。がまぁ、5ユーロだし普通の博物館という感じ。博物館の前には顔を真っ白に塗って不動のまま立っているパフォーマー(つまり自分を彫刻にしてるわけだ)が居て面白い。コチョコチョしたい。
博物館方面における圧巻は国立考古学博物館である。
入館料を10ユーロも取っていくが、量はかなりあって素晴らしい。いわゆる典型的なギリシャっぽい彫刻を中心に、色々な時代の色々なガラクタ(失礼)が並んでいて面白い。石棺と一体化した人物像など、ゲームのモンスターになれるくらいシュールでよかった。
ということで、ほぼ徹夜のままダッシュで回って夕方の飛行機でサヨウナラ。今度来るときはもう少しじっくり見てみたい。
初出「ぶらりオタク旅」(開田無法地帯)