上海プチ奇食旅行記 それは食べてもいいものか編

珍しい食材や一皿など、いわゆる奇食探しをライフワークとして内外広く飛び回ってきた大橋さん。
今回はゲテ食の本場である中国・上海での体験記を2回に渡ってお届けします。
前回、「ユムシ慕情編」はこちら。
(注:本旅行記は2016年1月時点の記録です、写真はすべて大橋則夫氏によるもの)

Profile
大橋則夫

大橋則夫(おおはし・のりお)

1976年愛知県蒲郡市生まれ。雑誌や書籍のコラム、企業ブログの執筆などいろいろと手がける。
旅とプロレスとお笑いと民芸品とゲテモノ食いと山登り←NEW!!が好きな馬鹿。

2016年1月9日(土)晴れ。
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世の中には、食べていけないモノが二種類あると考える。ひとつは、毒のある食べ物。フグの卵巣やベニテングダケ、トリカブト、スベスベマンジュウガニなどなど。あともうひとつは、人としてそれ食べていいの?と思えるような食材だと思う。
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同行のW氏が僕を置いて南京へ行ってしまったので、一人地下鉄に乗り老西門へ。
小さな路地にある商店街にひかれ、ぶらぶら歩く。商店できつい煙草を買った。無愛想な店主からお礼の言葉はない。あ、そう、煙草買うの、じゃあお金頂戴くらい。建物と建物の間にはロープが渡してあって、洗濯物が大量に干されている。みんな器用に長い棒を使って、窓から身を乗り出してロープに洗濯物を干していた。

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スマホのナビが使えないのでどこにいるのか良く分からないまま一日中歩き、足が棒のようになる。腹も減った。ふらふらと屋台街を歩いていたら、臓器売買の見本市のようなショーケースが目に入った。空腹で何だか目がかすむ。このままでは上海の悪い人にさらわれて臓器を抜き取られてしまうかもしれないな。よし、今宵は上海で内臓料理を食べて無駄に精力をつけよう!

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店を物色しててたまたま入った屋台街。名産のザリガニの他、海産物を串焼きにして出してくれる小さな飲み屋がずらっと並び、毒々しいネオンが僕をオイデオイデしていた。その中で、一軒の店が目に止まる。火鍋や羊肉料理を出す店のようだが、羊丸、羊眼、羊脳、羊胎盤など、デンジャラスな香り漂うメニューもチラホラ。店構えも極めて入りにくいぞ、よしここにした!

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前菜にと早速注文したのは「羊眼」、すなわち羊の目玉のボイル。まず、切り方が良くないと思います。元々の造形が分かる悪意のある切り方だ。映画「ザ・セル」の馬の輪切りシーンを思い出した。食べてみると、とにかく生臭いし、食感はぐにゅぐにゅして気持ち悪い。黒目の部分はというとゴリゴリと不気味に硬い。でも、生き物の命を頂くわけなので我慢して残さず食べた。我慢して。不味い!

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続いて、「羊鞭」、すなわち羊のペニスのボイルです。鞭だから、羊の尻尾だと勝手に思い込んでた。で、自分で頼んでおいて何ですが、これも切り方に悪意を感じる!先っちょがこっち向いてるし!

食べてみるとこれまた、生臭く、ぐにゅぐにゅとして気持ち悪いったらありゃしない。酢を効かせたタレが無ければとても食べられない。それに、いろいろと想像する!ああ不味い!お店のお兄ちゃんが、僕の様子を不憫に思ったのか羊のテールのスープをサービスで持ってきた。・・旨い・・ッ!羊、やればできるじゃないか…。
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羊の命に敬意を表して、滋味深い羊スープと青島ビールで竿と目玉を全部胃に流し込む。気のせいか食べてるうちに、目と下半身の辺りがジワジワと痛む気がしてきた。何なんだこの地味な心のダメージは。中国薬膳料理の「同物同治」の考え方は嘘ですか!?
いや、やはりこれらは、人として食べてはいけない類のメニューだから、心がどこかで拒否反応を起こしてるんだろうか。たぶん、それが正しい。

でもこういうゲテモノを食べるときというのは、普段は考えないような事をグルグル考える貴重な時間。好奇心と冒険心を満たす至福の時間。毎日がつまらないと感じるアナタ。上海にゲテモノ食いに出かけてみるのはどうでしょう。

この二品を食べただけで心が満腹になってしまい、僕はソソクサとお店を後にした。その後、南京帰りのW氏と合流。
W氏「生ラムが美味しい火鍋の店に食べに行きませんか?」「はい行きます!口直し!」
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生ラムの火鍋は天国のような美味しさで、あの店で食べた二品のことは綺麗さっぱり忘れてしまった。W氏ありがとう。

僕の好きな料理バトル漫画「鉄鍋のジャン」の主人公、秋山ジャンはこう言った。
「この世にゲテモノなんてものは無ぇ!あるのは旨いものと不味いものだけだ!(うろ覚え)」
でもこの日僕は改めて思い知ったのです。この世には、ゲテモノで、しかも不味いゲテモノがあるのだと。

店を出たところで、ペットの猿に芸をさせてチップをもらうじいちゃんに出会った。猿がバク転したり面白かったのでチップを渡した。

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そういえば、猿の脳みそってまだ食べたことなかったよな…。

(終わり)