「タビノート」下川裕治:第19回 僕はもう老人ということ?

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 空港での駐機時間の短さは、LCCの特徴でもある。乗客が全員、降りる前から、客室乗務員は機内清掃をはじめるLCCもある。乗客の搭乗もできるだけ効率化をはかり、短時間で離陸できる工夫をしている。
 30分──。これはLCCがめざす駐機時間である。この時間しか、空港に駐機しないことで、より効率的な機材の運用をめざしているのだ。
 実際、LCCのスケジュールはタイトだ。だから、なにかしらのトラブルで駐機時間や飛行時間が延びると、次々に遅れが発生する。既存の航空会社は、駐機時間に余裕をもたせているから、多少の遅れは、その時間で吸収することができる。しかしLCCはその余裕がない。スムーズな搭乗を工夫するのはそのためである。
 後ろの座席の乗客から搭乗するようにしているLCCは多い。日系LCCのなかには、窓側席の人から搭乗させるところもある。LCCは座席間隔が狭いため、最後に窓側の乗客が乗り込むと、通路側席の人が立って通路に出なくてはならない。そこで搭乗の列は止まってしまうからだ。
 インドネシアのジョグジャカルタ空港にいた。そこからシンガポールのLCCであるタイガーエアウエイズのシンガポール行きに乗るつもりだった。
 搭乗時間が近づき、待合室で待っていると、スタッフが名前を呼びはじめた。
「後方の座席の人を呼んでいるのに違いない。名前を呼べば、後方座席の人からの搭乗が徹底するってことか」
 そんなことを考えていた。
 すると、僕の名前が呼ばれた。僕の座席は12D。後方ではない。既存の航空会社には優先搭乗がある。ビジネスクラスや上級メンバー、小さな子供がいる乗客が先に乗り込むことができる。しかしLCCは、この種の優先搭乗はあまりない。
「どういうことなんだろう」
 前方に進むと、次々に搭乗券の半券をちぎっている。先頭の人は、すでに飛行機に向かって歩きはじめていた。
僕は優先搭乗の最後のほうになってしまった。そして機内に乗り込んだ。
「……?」
 すでに座席についた人を見ると、皆、老人か中年の人たちだった。
 なんだかばつの悪さを覚えてしまった。老人の優先搭乗だったのだ。
 僕は59歳である。55歳ぐらいで区切っているようだった。
 これはタイガーエアウエイズの方法なのか、ジョグジャカルタ空港のシステムなのかはわからない。
 座席についてちょっと苦笑いが出てしまった。僕はもう、老人ということらしい。

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タイガーエアウエイズ。キャンペーンの多いLCCでもある