「タビノート」下川裕治:第65回 中間既存航空会社の時代

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 前号を引き継ぐ内容になってしまった。中間クラスLCCの話である。
 今月、バンコクから帰国した。来月、中国の広州からチベットのラサまで列車に乗ることになっていた。バンコクから広州か香港経由で帰国し、復路で広州か香港までと思ったのだ。
 いろいろ調べていくと、香港航空がヒットしてきた。運賃を見て、
「香港航空が中間クラスか……」
 と呟いていた。
 バンコクと東京を結ぶ便を運賃で分けると、3つのグループに分けれる。
 ひとつは既存の航空会社グループで、タイ国際航空、日本航空、全日空、キャセイパシフィック、アシアナ航空などになる。キャンペーンや日程によって差があるが、だいたい往復2万バーツ、6万円といった金額が軸になる。
 もうひとつがLCCグループである。エアアジア、スクートなどが直行便を就航させている。こちらの運賃も変動があるが、往復1万バーツ、つまり3万円前後で買うことができたら、安いと思っていい。
 そして香港航空。バンコク発で買った運賃は往復で1万3000バーツだった。日本円にすると4万円弱ということになる。
 香港航空の名前は前から知っていたが、あまり存在感はなかった。2006年にできた航空会社で、既存航空会社とLCCという分類に当てはめると、既存航空会社になる。しかし運賃は既存の航空会社のなかではかなり安く、LCCに近い運賃を出していた。
 バンコクから乗ってみた。預ける荷物は無料で、かなりしっかりとした機内食がでる。座席指定も無料。シート間隔も通常で、シートテレビでは日本の映画も観ることができた。
 しかしアライアンスには加盟していない。運行時間帯もそれほどよくない。つまり香港航空は中間クラス既存航空会社といってもいいかもしれない。
 前号でタイスマイルを中間LCCと表現したが、見方を変えれば中間既存航空会社ともいえる。アジアの空には、このクラスの飛行機が飛びはじめるようになった。そこまで進んでいるのだ。
 感じるのは香港やタイの自由さである。日本を見ると、はたして中間クラス航空会社が出現するのか……と思う。LCCは乗りたくないが、既存の航空会社は高いという間隙を縫う存在。高齢化社会に向かうアジアでは、これから存在感を増していくような気がする。

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香港航空。シートテレビに日本の映画あるが、本数は少ない