下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治
いつも通りのタイガーエアウエイズである。6月13日。バンコクからシンガポールまで乗った。
飛行時間は2時間半ほどである。これぐらいの距離なら、有料の座席指定はしない。LCCの機体はだいたい、中央の通路の左右に3席である。中央の席にあたる確率は3分の1。仮に中央の席になったとしても、2時間半なら、それほど大変ではない。
チェックインカウンターに並んだが、前の中国人の4人連れがもめていた。予約と支払いをすませたスマホの画面を見せているのだが、どうも中国語ばかりで、タイガーエアウエイズのスタッフが読めないらしい。
するとスタッフに呼ばれた。
「ちょっと、チケット借りれますか?」
僕はプリントした紙を渡した。スタッフはそれを中国人たちに見せている。
「こういう英語が入った予約サイトにしてほしい」
そう説明しているのに違いなかった。会話が通じたのかどうかわからないが、4人の中国人は、どこかへ行ってしまった。
前に進む。
「席は窓側? 通路側?」
そう聞かれた。
「……? 席の指定は有料でしょ」
「すいているときはいいんです」
「そうなんですか」
チェックインカウンターのスタッフは、今日の搭乗者数がだいたいわかっているのだろうか。そして席を予約した乗客の数も。
そこから逆に考えれば、無料で席の予約を受け付けても問題はないことがわかるのだろう。しかしちゃんと席を予約した人は、なにかしらの料金を払っているわけで、後ろめたさもある。
LCC各社から、毎日のように、プロモーションメールが届く。エアアジア、タイガーエアウエイズ、スクート、バニラエアあたりが多いだろうか。しっかり見れば、いろんなプロモーションがあるのはわかっているが、面倒くささが先に立つ。
「タイガーエアウエイズが、預ける荷物無料キャンペーンをやっていたんで、即、予約しました。乗り継ぎですが、シンガポールまでだいぶ安くなる」
先日、知人からそういわれたことがある。
LCCに乗るとき、基本的に荷物は預けない。残る費用は座席だけ? それも運がよければ、無料で席の指定ができる。
できるだけ、航空券以外のオプショナル予約はしない……。3時間以内のLCC路線なら、それでいいような気もしてくる。