「タビノート」下川裕治:第30回 LCC競合路線がねらい目?

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 LCCという航空会社群は、その言葉の通り、安い航空会社ということになっている。たしかい安い路線は多い。しかし、その基本認識に疑問符がつく航空会社もある。
 フィリピンのセブ・パシフィック航空である。
 先日、香港からマニラまで、セブ・パシフィック航空に乗った。運賃を調べてみると、日本円で片道1万2000円ほどした。
「ちょっと高いな」
 と思った。フライト時間は2時間ほどである。ほかの路線なら、1万円を切ってもおかしくはない。セブ・パシフィック航空はマカオからマニラまでの路線をもっていた。そちらを見ると、深夜便にもかかわらず、香港からよりも高かった。
 マニラから東京に戻った。その航空券を調べてみた。いちばん安い運賃を出していたのはデルタ航空で片道2万3000円ほど。朝の8時台の便だった。セブ・パシフィック航空を見ると、3万円台。出発時刻はデルタ航空より早かった。
 マニラでひとりの日本人と会った。彼は翌週、バンコクに行くという。飛行機会社を訊くと、フィリピン航空だという。
「セブ・パシフィック航空も飛んでいますが、高いですから、いつもフィリピン航空ですよ」
 セブ・パシフィック航空は、搭乗日が近づくと高くなる傾向があるように思うが、ほかのLCCの値ごろ感からすると、やはり高かった。
 やはり競合の問題のような気がする。成田からマニラの路線を見ても、直行便はフィリピン航空、日本航空、全日空、デルタ航空、そしてセブ・パシフィック航空しかない。この状況なら、それほど安くしなくてもいいのだろう。
 エアアジアの成田―バンコク路線が就航した。それを追いかけるように、ノックエアとスクートが共同出資するノックスクートが、この路線に飛びそうだ。
 やはりLCCの安さは、1社だけではなかなか実現しない。これからのLCC選びは、LCC競合路線ということになっていきそうだ。
 LCCには勢いがあるが、その経営はけっして楽ではないという。日本国内線のLCCを見ても、収益分岐点といわれる、搭乗率8割になかなか達しない。厳しい状況が続いているわけだ。
 その意味では、セブ・パシフィック航空は安泰ということか。しかしこのところ、フィリピン経済の伸びが堅調だという。経済成長に足並みを揃えて、人の動きも活発になる。フィリピン路線がLCC競合路線になるのも、そう遠くないのかもしれない。

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マニラの空港に到着したセブ・パシフィック航空。搭乗率は6割ほどだった