「タビノート」下川裕治:第46回 タイ・ライオンエアの存在感

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 バンコクのドーンムアン空港からチェンマイまで、タイ・ライオンエアに乗った。
 気になる航空会社だった。インドネシアのライオンエアとの合弁会社としてタイ・ライオンエアが就航したのは2013年の12月。バンコクとチェンマイを結ぶ路線だった。
 その広告をバンコクで頻繁に見るようになった。ドーンムアン空港からLCCに乗ると、空港には何機ものライオンエアが駐機していた。急速にタイのLCC世界で存在感を強めていたのだ。それが昨年のことである。
 バンコクからチェンマイに向かう飛行機を検索していた。安い順に並んだその検索画面には、タイ・ライオンエアがずらりと並んでいた。片道で1000バーツを切る価格帯である。日本円で4000円ほどだ。
 便数を調べてみた。バンコクーチェンマイ間に1日9便。タイ・エアアジアが10便、ノックエアが7便体制である。タイ・エアアジアとノックエアというタイのLCC世界は一気に揺れはじめていた。震源はタイ・ライオンエアである。
 予約、そしてチェックインまでの流れは、簡素化されていた。預ける荷物は15キロまで無料だから、その選択サイトもない。座席指定もない。ウエブチェックインもない。最近のタイ人は、航空券を出力しない人が増えている。僕の前にいたおじさんは、身分証明書だけを出してチェックインをすませていた。
 座席は狭かった。タイ・エアアジアより狭い気がする。ラックには有料の機内食のメニューがあったが、どうした理由か、チェンマイに到着するまで、ワゴンでの機内販売もなかった。
 LCCはサービスを簡素化することで安い運賃を導き出していた。しかしその後、LCC間の競争が激しくなり、さまざまなサービスを加えることで利用客を集めようとしていた。ノックエアは簡単な無料軽食を出し、ぎりぎりまでのチェックインを可能にしていた。タイ・エアアジアの有料機内食も、充実してきていた。
 そこを逆手にとったようなタイ・ライオンエアである。LCCの原点に戻ったかのように、サービスを省き、価格の一本勝負に出てきたのだ。
 LCCの最大の魅力は、やはり安いことだといいたげである。
「ライオンエアが加わって、バンコクまでは片道500バーツっていう、感覚がチェンマイに人に生まれてますね」
 とチャンマイのタイ人。僕は直前だったので1000バーツほどだったが、早めに安い便を狙えばバンコクまで片道500バーツ、つまり2000円というのは、それほど難しくないようだ。
 しかしバンコクーチェンマイ路線に、それほどの需要はあるのだろうか。チェンマイまでの便は8割方埋まっていた。

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ドーンムアン空港のタイ・ライオンエア。よく目にする