「タビノート」下川裕治:第21回 既存航空会社はおまけ路線でLCC

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 バンコクからベトナムのホーチミンシティに飛ぶことになった。東南アジアの移動では、まずLCCが思い浮かぶ。ベトナムだったらヴィエトジェットだろうか。しかしこの路線にはエアアジアも就航している。
 最近の東南アジアは、ひとつの路線に複数のLCCが就航していることが珍しくない。そこで料金を比べることになるのだが……。
 バンコクには旅行代理店で働く知人がいる。LCCの路線が増えて、短距離便の手配は少なくなっているようだが、日本との往復となると、まだ旅行代理店は強い味方だ。
 バンコクからホーチミンシティへの便を訊いてみた。
「そりゃ、トルコ航空でしょ。スターアライアンスだから、マイルが貯まるっていう駐在員もいますよ。まあ、それ以前にとにかく安いんですよ」
 トルコ航空の値段は、最も安いもので、往復7000バーツ弱。これはマイルが貯まらないクラスだったが。日本円にすると2万円ほどである。
 ネットでLCCの運賃を見てみた。ヴィトジェットがいちばん安く、往復6000バーツほど。エアアジアは8000バーツを超えていた。その金額を眺めて、考えてしまった。
「エアアジアは論外としても、ヴィトジェットとトルコ航空の差が1000バーツ、3000円である。
 トルコ航空の路線は、イスタンブールーバンコクーホーチミンシティだった。バンコクーホーチミンシティ間は、空席があれば、安くしても埋めたい、という発想なのだろう。
 ネットには登場しない運賃だった。バンコクの旅行代理店を通して、こっそり売っている世界にも映る。LCCの路線が増え、その運賃も刺激になっているようだった。
 トルコ航空を選んでみた。
 20年以上前になるが、トルコ航空によく乗った。イスタンブールーバンコクー東京という路線に就航していた。バンコクから東京への便で、安い運賃を打ち出していた。
 そのときと同じような構造だった。東京とイスタンブールは燃費のいい航空機の登場でノンストップ便になった。そしていまは、バンコクとホーチミンシティを結ぶ便が運航していた。これをどうとらえたらいいのだろうか。 
 トルコ航空は既存の航空会社だから、預ける荷物も無料で、座席指定で運賃が左右することもない。
 バンコクからホーチミンシティは1時間ほどのフライトだが、一応、機内食も出た。サンドイッチとケーキに飲み物といった簡単なものだったが。
 シートテレビもある。片道だけでは最後まで観ることはできなかったが、いくつかの日本映画も選ぶことができた。
 機内はほぼ満席だった。僕のようにバンコクとホーチミンシティを往復するタイ人が20~30人いたが、それ以外はトルコ人が多かった。
 東南アジアのLCCに乗ると、その座席のほとんどが地元の人で埋まる。しかし長距離のメイン路線の先のおまけ路線には、トルコと東南アジアが混在し、地球レベルの人の動きが伝わってくる。
 運賃を考えれば、これもある種のLCCに映るのだった。

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トルコ航空のバンコクーホーチミンシティ線は1日1便