「タビノート」下川裕治:第44回 滞在型トランジットという航空券

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

既存の航空会社にできてLCCにはできないこと──。そのひとつにトランジットがある。トランジットというのは、途中降機と訳される。
たとえば、成田空港からバンコクまで行くとする。運賃やスケジュールの関係から台湾のチャイナエアーを選んだとしよう。チャイナエアーは台湾の航空会社だから、台北で必ず乗り換えになる。そして飛行機の便名も変わる。台北の空港に降りるわけで、これをトランジットという。
しかしこのトランジットは一般的なもの。応用形がある。台北からバンコクに向かう便をあえて翌日にしてもらう。台北に1泊という日程になるわけだ。
これでも運賃が変わらない。というのは、台湾には24時間以内の乗り換えはトランジット扱いになるというルールがあるからだ。つまり、台北に到着して、24時間以内の便でバンコクに向かうなら、台北の空港で1時間のトランジット、と同じことになる。
このルールは空港というより、国が決めている。だいたいが24時間だが、日本は、「日をまたがない」というルールである。
このトランジットをうまく使えば、2都市を1都市運賃で訪ねることができる。1都市は24時間以内という時間制限はあるが。
この方法はLCCでは難しい。LCCは2都市間の単純往復を基本にしているからだ。日本が絡んだ路線では、エアアジアのクアラルンプールでのトランジットというパターンがあるぐらいだろうか。基本的にはLCC2社を乗り継ぐことになる。
そこで運賃を比べてみる。5月に成田からソウル経由でバンコクに行くとしよう。検索すると大韓航空が往復4万円台前半だった。大韓航空だから、ソウルでの24時間以内の滞在は可能だ。LCCの組み合わせはどうだろうか。成田―ソウルはチェジュ航空で往復1万8000円ほど。ソウルからバンコクはイースタージェットが4万円台前半。大韓航空のほうが安くなる。
韓国系の航空会社はいま、かなり安い運賃を出してきている。一概にほかの路線と比べることはできない。しかしこれまでの僕の感覚では、既存の航空会社とLCCの組み合わせは、だいたい同じぐらいの金額になる。となれば既存の航空会社を利用したほうが得である。
トランジットを使った予約では、ネットが使いにくい。ネットで出てくるのは、最短時間や最安値のものが基本で、あえて途中で1泊という希望には対応していない。既存の航空会社なら旅行会社や予約センター、LCCならコールセンターに電話をかけて相談していくしかない。このあたりは、やや面倒だが。

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仁川国際空港。預ける荷物は最終目的地にして、手荷物だけでのトランジットもできる。