下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
運営しているYouTubeのサイト「下川裕治のアジアチャンネル」で、アジア各国の空港の様子を配信している。現地に住む知人に撮影を依頼している。
「空港? なかに入ることができるのかなぁ」
という返事が返ってくることが多い。空港は閉鎖されているイメージがあるのだ。国によってまちまちだが、国際線は運航していないことも多い。飛んでいてもごくわずかだからだ。
仮に海外に出ても、アジアの場合は、2週間の隔離になる。台湾在住の日本人が日本人に帰国したとする。日本入国時に2週間、台湾に戻ったときに2週間。ほぼ1ヵ月の隔離になる。気軽に帰国もできない。空港も縁遠い存在になっている。
最初に観たのは、台湾の桃園国際空港だった。空港へ向かう電車の動画を観ると、座席はそこそこ埋まっていたが、大きな荷物を持った乗客がいない。つまり周辺に住む人の足になっていた。空港は閑散としていたが、開いているチェックインカウンターもあった。感染が収まった中国や封じ込めがうまくいったといわれるベトナムへの便だった。現地に着くと隔離が待っているのだが、乗らざるをえない事情があるのだろう。ベトナムのニャチャン行きのカウンターが混みあっていたが、これはニャチャンのPCR検査がスムーズだからなのだという。
続いて送られてきたのが、バンコクのスワンナプーム空港だった。タイは国内線は再開しているが、国際線はほぼストップしている。その現状を空港動画は如実に映しだしていた。スワンナプーム空港は正面から入って左手に国内線のチェックインカウンターがある。そこには人がいるのだが、そこから国際線のほうに移っていくと、閑散どころか、人がまったくいない世界になる。すべてのチェックインカウンターに人の姿がない。その光景はなんだか不気味ですらあった。
続いて観たシェムリアップ空港は、人のいない倉庫のようにも映った。なんでも国内線が週に1本程度あるらしいのだが、ほぼ空港は休眠状態である。
この状態なら、空港を閉じてもいいのではないか……と思うのだが、動画を撮ってくれた在住日本人は、
「ATMを利用する現地の人がいるという話です。空港には何台ものATMがあって便利なんです」
そのために空港が開いている。
コロナ禍の空港の現実だった。
バンコクのスワンナプーム空港と市内を結ぶエアポートリンク。いまはバンコクっ子の通勤電車