下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治
乗りたくはないバスだった。これまで成田空港から早朝に出発する便には何回か乗った。しかし朝の5時30分に東京駅を出るバスで、なんとか間に合っていた。このバスなら、最寄駅を出る始発電車に乗れば間に合った。
しかしジェットスターの沖縄行きの早朝便は、そういうわけにはいかなかった。
出発が6時10分なのだ。
東京駅を午前1時30分に出るバスに乗るしかなかった。しかし徹夜でLCCに乗ることになる。そこまでして……という思いはあるのだが、やはり、安かった。
午前1時すぎにバスの停留所に向かう。すでに列ができていた。成田空港まで900円というこのバスは、予約した人と予約のない人がそれぞれ列をつくる。予約のない人が多い。ここで待てば乗ることができるということらしい。
バスは定刻に発車した。深夜の高速道路を走るのだが、妙にゆっくり走る。そして成田空港手前の酒々井サービスエリアで5分間の休憩。空港に着いたのは3時だった。
ゆっくり走り、通常はない休憩までとる理由が、成田空港に着いてわかった。空港がまだ開いていなかったのだ。時間を稼ぎながら空港に向かったわけだ。
乗客はすることもなく、ドアの前で待つ。すると3時30分、警備員が現れ、ドアの鍵を開けはじめた。乗客はぞろぞろとターミナルビルに入る。電灯が次々についていった。
ジェットスターのチェックインコーナーに向かった。しかし暗い。自動チェックイン機だけが光っている。試みにチェックインしてみたが、時間が早いようで、カウンターに行くように書かれた紙が出てくるだけだった。
ジェットスターのスタッフが現れ、電気がついたのは4時頃だった。出発の2時間前からチェックインをはじめるということらしい。4時10分。チェックインがはじまった。
預ける荷物はないから、チェックインはすぐに終わる。そこからセキュリティーチェックに向かったのだが、そこが閉まっていた。
バスが30分遅れて着き、ターミナルビルの前で30分、チェックインコーナーの前で30分、そしてセキュリティーチェックの前で……。
眠いのである。その状態で中途半端に30分待つのが辛い。椅子で寝るには短く、待つには長い30分。
セキュリティーチェックがはじまったのは5時少し前だった。これから搭乗口で、バスに乗るまで30分ほど待つことになる。
この30分を全部集めたら2時間30分になる。これをまとめて眠ることができたら、どんなに体が軽くなるだろう。そんなことをぼんやりとした頭で考える。
もう少し、うまい接続というものはないだろうか。なんでも大江戸温泉で休んで午前3時台に出発するバスもあるようだが、温泉代を含めると、2100円になってしまう。
4000円台、5000円台というLCCに乗る身にすれば、やはり高く映る。
ほぼ徹夜状態で飛行機に乗り込んだ。
ことッと寝てしまった。
すいていたのだ。3列分を確保し、体を横にして寝ることができた。
那覇空港について、写真を撮っていないことに気づいた。やはりぼんやりしていたらしい。