下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治
タイのバンコクから、台北経由で東京に戻ることになった。バンコクー台北間はタイ国際航空のプロモーション運賃を利用することができた。
台北から成田空港──。LCCはバニラ・エア、スクート、ジェットスターが就航していた。運賃を見ると、バニラ・エアとスクートが安かった。
このLCC2社、運賃は安いのだが、運航スケジュールに難があった。
バニラ・エアは台北発が午前3時台と午前11時台。スクートは午前6時台に台北を出発する。ともに国際線だから、一応、2時間前のチェックインである。バニラ・エアの午前3時台に発つ便は、最終バスで空港に向かうことになる。スクートは逆に、午前4時30分発の空港行きバスになる。
どちらも辛いのだ。
空港の発着枠の問題もあるのだろうが、LCCはときに、深夜や早朝などの時間帯に離発着する。そのためにタクシーに乗ったり、ホテルに泊まるなどしたら、LCCを使う意味がなくなってしまう。空港への安い足があってこそLCCなのだ。
そう考えると台北から成田に行く便は、バニラ・エアの午前11時台の便がベストということになる。
しかし成田から台北までのバニラ・エアのスケジュールもやや辛い。出発が午前7時台と夜の9時台である。その点、スクートは昼前後に出発する。
日本からのスケジュールを考えると、行きはスクート、帰りはバニラ・エアという選択肢だろうか。ジェットスターが安くなってくれば、この組み合わせも変わってくるが。
午前11時台に台北を出発するバニラ・エア便の予約をとった。
バニラ・エアを選んだ理由はもうひとつあった。荷物の問題だった。今回はいろいろな用事があり、荷物を預けなくてはいけなかった。バンコクから台北までをタイ国際航空にしたのはそんな理由もあった。
そしてバニラ・エアは20キロまで預ける荷物が無料だった。LCCと既存の航空会社を乗り継いでいくとき、このサービスはありがたかった。預ける荷物に気を遣わずにすむのだ。
台北発のバニラ・エアはほぼ満席だった。半数以上が台湾人だった。
バニラ・エアは、エアアジアジャパンを引き継いだLCCだが、機内は日本の航空会社の空気である。日本の国内線に乗り込んだような気分だった。
バニラ・エアは機長の人員を確保できず、減便を発表した。機長はその機種ごとに訓練を受け、資格をとらなければならない。LCCが急成長し、エアバス320とボーイング737の運航資格をもった機長の奪い合いは世界的な傾向である。機長の給料が高くなると、運賃にも反映されてしまう。LCCが抱える問題のひとつだ。
台湾路線は減便の対象にはならなかった。