下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
そういう星のもとに生まれたということだろうか。またしてもロストバッゲージに遭ってしまった。平均すると、年に1回は荷物が届かない場面に遭遇している。
東京発ウラジオストク経由のユジノサハリンスク行きである。ユジノサハリンスクはサハリン州の州都だ。
ロシアのS7で予約を入れた。航空券はユジノサハリンスクまでS7になっていたが、ウラジオストクからはオーロラだった。オーロラはサハリン航空とウラジオストク航空が合併してできた航空会社だ。
かなりの回数、海外に出かける知人のなかには、いまだに1度もロストバッゲージに遭っていない人もいる。僕は客観的にみても多い方だと思う。
これだけ遭遇すると、僕なりに自衛もする。なるべく直行便にするという考えもあるが、航空運賃や日程の関係で、うまくいかないことことが多い。気をつけているのは、到着地に1泊しかしないときは、極力、荷物を預けないようにしていることだ。
以前、バンクーバーの空港でロストバッゲージに遭った。そのときは、バンクーバーに1泊し、列車に乗ることになっていた。届かなかった荷物は、航空会社が届けてくれるが、だいたい翌日になる。受けとることができないのだ。届かなかった鞄を手にしたのは4日後だった。
しかし今回はユジノサハリンスクに1週間滞在する……。
ユジノサハリンスク空港の職員の前で怒りたいところだが、このカウンターで声を荒げたところで、なにも解決しないことも知っている。
書類を埋めながら、「どうしようか」と悩んだ。僕らはAirbnbで予約したアパートに宿泊することになっていた。ホテルと違い、代理で受けとってくれる人がいない。荷物が届く時刻を確認し、そのときはアパートにいるようにしなくてはならない。
「ウラジオストクから来る最初の便は午後3時ごろに着きます。それからですから午後5時ごろには」
「ウラジオストク空港にあるってことは確かなんです?」
「たぶん、ウラジオストク空港だと思います」
「……」
季節は12月。機内の案内では、気温はマイナス12度といっていた。届かない荷物のなかに、僕はダウンジャケットを入れていた。翌日、街に出てみたが、1時間が限界だった。これからは寒いエリアに向かうときは、防寒具は預けないほうがいいかもしれない。
午後5時。荷物を積んだトラックが現れた。
僕らの荷物を受けとったが、なかにはまだ5個ほどの荷物が積まれていた。
帰路はユジノサハリンスクからS7航空だった。