バルト三国とポーランド・チェコをダッシュで行く その5

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評論同人誌サークル「暗黒通信団」の雑文書き。
貧乏ノマド独身。英語は苦手。好きな地域は中東の砂漠。元コミケスタッフ。コテコテの理系。自称高等遊民。
詳しくは http://ankokudan.org/d/d.htm?member-j.html

その1その2その3その4

首都ワルシャワが東京だとするなら、京都に相当するのが古都クラコフである。
ポーランド観光で絶対外せない「アウシュビッツ」の起点となる町だ。
古都というわりにはイオンみたいなショッピングモールと一体化していて、明るく近代的な駅である。

いつも忙しいが、この日はスペシャルに過密である。
アウシュビッツ収容所とヴェリチカ鉱山という、どちらも要予約のヘビーな世界遺産を、
どちらも予約無しぶっつけで、しかもまとめて一日で攻略してしまおうという鬼プランだ。
その上、パッケージツアーなら専用バス様をご用意するだろうところを、個人旅なので公共交通機関しか使えない。
なんでこんなハードランクになったのかと自問するが、細かい旅程を旅の途中で決めていくスタイルなので、
あれもこれも見たいと欲張れば、どんどんタイトになってしまう。
今回はその長い日の前編、アウシュビッツだ。
なお、あまりひどい目にあっていないが、そもそもアウシュビッツ自体がひどいところだから、そこは大目に見てほしい。

両隣女性という苦行みたいな部屋(以前書いたスプリットの記録を参照)の中、朝5時半にビシッと起きて、駅へ向かう。
アウシュビッツ行きのバスは駅の裏のバスターミナルから出るのだ。
時間的に失敗できないので、ちゃんと前日のうちにチケットを買ってターミナル番号も調べておいた周到さを褒め称えよ。

当然の90分車内爆睡を経て、終点で放り出されれば風光明媚な広場。
だがそこがナチスのガス室で有名なアウシュビッツである。
まず最初が勝負で、如何に速くダッシュで無料券をゲットするかだ。

そもそもアウシュビッツは原則ガイドツアーしか受け入れていない。
ものがものだから物見遊山で来てもらっては困るということだろうし、実際ガイドしてもらったほうが有益なのだろうが、
現実にはガイドの予約など2週間先まで埋まっていて、いつ何のハプニングが起こるかわからない強行軍では不用意にツアーの設定などできない。

そこで宿のスタッフに聞いてみたところが「今の時期ならオフシーズンだから朝一番で行けば大丈夫だと思う」というコメントを頂いた。
信じますか?はい!

しかし実際バス停を降りてどこに向かえば無料券がゲットできるかわからないから、
同じようにダッシュしている人々の行き先を見て、Informationと書かれたプレハブを狙う。

無料チケットをくれるプレハブ

無料チケットをくれるプレハブ

結果的にそれは大正解であり、受付嬢に「Free ticket, please」といえば一瞬でレシートみたいな感熱紙チケットが出てきた。

ちなみにこのセリフも、前に並んでいたカップルを真似ただけである。
「No tour?」とか聞かれたけど、予約してないので無理。
明るく「No!」と言える日本人になりましょう。

まずすることは、ショップで日本語ガイド(案内書という)を買ってくることだ。
さすが有名処というか、日本語版が売っている。
最低限これがあればとりあえずガイドなしでもなんとかなる。

カバン的荷物は預かり所に預け、カメラと貴重品だけもってゲートを抜け、さぁ見学開始!

ゲート

ゲート

HALT(STOP)と書いてある

HALT(STOP)と書いてある

有名な「働けば自由になれる」(ARBEIT MACHT FREI)門をこえると、
ごつい鉄条網(もちろん往時は220Vがかかっていたそうな)の中にレンガ造りの建物が並んでおり、番号が割り振られている。

バイトすれば自由になる門

バイトすれば自由になる門

ちなみに18番がトイレだ。9割の人が人生自体から自由になって焼かれたらしい。

鉄条網。かつては220Vが通っていた

鉄条網。かつては220Vが通っていた

いくつかの建物が公開されていて、中に展示物が並んでいるのを順路に従って見てゆく。

建物

建物

今でこそこんなだが、過去にはドイツ兵が立ってたりしたのだろう

今でこそこんなだが、過去にはドイツ兵が立ってたりしたのだろう

左手前に見えるのが首吊り台

左手前に見えるのが首吊り台

どれも色々と深刻なのだが、中でも青酸ガスの缶(ツィクロンBという殺虫剤で1缶150人を殺すらしい。
……って虫扱いかよ)を開けた空き缶の山と、収容者のユダヤ人から接収した靴だのメガネだのカバンだの髪の毛だのの量には困惑せざる得ない。

毒ガスの空き缶。メーカーからは20tが納品されたとか

毒ガスの空き缶。メーカーからは20tが納品されたとか

鞄

靴。量が……

靴。量が……

なんとも工業的というか、昔のSFによくあった管理社会のAIが反乱を起こして人類を虐殺するようなディストピアがそこに広がっている。

そもそも展示の説明がえぐい。刈り取った髪の毛も工業原料にしましたとか、さすがに普通は思いつかないレベルの蛮行がサラッと書いてある。
廊下に並んだ写真も男性と女性の区別がつかない上、だいたい入所数日から数週間程度で死んでいる。

deported(収容)が24日で死亡が27日。来てわずか3日で死亡

deported(収容)が24日で死亡が27日。来てわずか3日で死亡

4日で死亡。こんなのばかり

4日で死亡。こんなのばかり

日々の食事のサンプルもあったが、スープは腐った野菜製らしいし、そもそもこれで11時間労働とか無理だろうという少なさだ。

これで1日の食事

これで1日の食事

ガイドブック的には一応の順路があり、その最後がいわゆる「ガス室」なのだが、
ここは本来は「シャワーを浴びて体を綺麗にする」ための部屋というふれこみだったので、壁にはダミーのシャワーもついている。

収容者用トイレ。ついたてなんてあるわけない

収容者用トイレ。ついたてなんてあるわけない

毒ガスは天井の小穴から缶で投げ入れられた。
死んだ人間を焼くための窯が隣の部屋にあり、ドイツ兵は缶さえ投げればあとはユダヤ人同士で焼くところまでやるという人力オートメーションなシステムになっていたとか。
なお現在ではニオイとかも特に感じられない。

アウシュビッツのガス室

アウシュビッツのガス室

ガス室の隣の死体焼き窯

ガス室の隣の死体焼き窯

いわゆるアウシュビッツは、第一収容所(アウシュビッツ)とさらに広大な第二収容所(ビルケナウ)に分かれていて、そのあいだを無料バスが結んでいる。

アウシュビッツとビルケナウの位置関係

アウシュビッツとビルケナウの位置関係

発着場所には時刻表も貼ってあるので分かりやすいが、アウシュビッツ発ビルケナウ行きのバスは始発が10時30分なので、それまでは食傷気味のアウシュビッツで耐えるしかない。
こんなところを年間100万人以上が来るのってどう考えてもマゾとしか。

ビルケナウのほうはやたらに広大だ。

有名なビルケナウの門

有名なビルケナウの門

鉄道が門を通り中まで入っていて、貨車からガス室まで一直線という無慈悲な構造になっている。
こちらのガス室はナチスが証拠隠滅で爆破したため瓦礫の山でしかない。
国家事業で虐殺をしていた割には、悪いことをしていたという自覚があったのかと。

有名な貨車

有名な貨車

大変暑く喉が渇くが、ビルケナウは門の外にしか売店がないので、そこでアウシュビッツに戻るバスを待つ。
だいたい15分おきだ。アウシュビッツ発12時15分のバスに乗って、クラコフの駅に戻ったのは14時であった。

ビルケナウの風景

ビルケナウの風景

ビルケナウのガス室跡

ビルケナウのガス室跡

朝飯抜き8時から観光開始だったのでたっぷり6時間。
もうこの時点でヘロヘロだったので、旧市街のグラム売り食堂でハンバーグ2つと肉ばかり食う。
グラム売りなら水分が少ないものを食べるべきなので、必然的に肉なのだ。
散々死体写真を見せられて肉など無理だろうと思ったが、意外と割り切って食べられてしまうところに業を感じる。