tabinoteハマです。
昨年2020年3月、日本海きらきら羽越観光圏さんご協力のもと、山形県鶴岡市・酒田市〜秋田県にかほ市の旅が実現しました。
あれから一年が経ちますが、今年2021年の展示状況と共に庄内地方の雛祭り・雛展示についてご紹介させていただきます。
皆さんは「お雛さま」「雛祭り」にどういったイメージを持っていますか?
小さい頃にはよく飾ってもらったものだったけれど、私にはすっかり過去のものと言う印象でした。
昭和女子(?)ですらその印象ですから、現役女子に至っては、家にひな壇飾りがある家の方が少数派なのだと思います。私もハッと思い出して、アレどこに行ったの?と確認したところ、とっくにお焚き上げしていて家にありませんでした。
そのくらい、気づけばどんどん消失しているものなんですよね。
3月3日の桃の節句に女の子の家に飾るもので、お祝いと言った意味があるらしい。そんなレベルの認識でした。
山形県鶴岡市、酒田市の歴史とマインド
昨年訪ねた、山形県庄内地方の鶴岡市は、徳川譜代藩で徳川四天王の筆頭でもあった「酒井家」を藩主とした、庄内藩十四万石の城下町です。また、酒田市は、江戸から明治にかけ、最上川舟運と、西廻り航路と呼ばれる北前船交易を繁栄させた立役者「本間家」ゆかりの上方や江戸の文化が随所に残る湊町です。
この地域では、江戸時代、参勤交代で江戸から、また、西廻り航路によって京の都から運ばれた雛人形や雛道具が時代の大きな移り変わりの中、旧家によって代々大切に受け継がれてきたのだそうです。実際に近くで見るお人形たちの顔立ちや装束、小道具の細やかさや美しさには何度も息を呑みました。
雛祭りの歴史
雛祭りは、平安時代からあった流し雛(紙で作った人形を川に流し、災いの身代わりとしたもの)などの行事が、紙で作った人形を神様とみたて節句の行事としてもてなす慣わしと、貴族の少女が好んだ人形遊び・人形飾りが混ざり合い江戸中期頃より女の子の初節句を祝う行事として定着したものがその起源だそうです。
また、明治より旧暦から新暦に変わったことと、冬が長い東北地方は今でも旧暦通り、4月3日に雛祭りが行われる場所も多いとのこと。
そして雛人形の段数は三段、五段、七段飾りの三種類が多く見られ、人形の数も奇数で揃えるのは、奇数を陽の数とする陰陽道の由来に関係しているそうです。
お雛さまとその他の人形たち
お雛さまにも、作られた時代や流行によって実は種類がいくつもあります。
- 立ち雛(たちびな/江戸以前)
- 享保雛(きょうほびな/享保(1716〜36年頃))
- 有職雛(ゆうそくびな/宝暦(1751〜64年頃))
- 次郎左衛門雛(じろうざえもんびな/宝暦(1751〜64年頃))
- 古今雛(こきんびな/明和(1764〜1772年頃))
- 芥子雛(けしびな/江戸中期)
紙で作られた人形。立てて飾っていました。
↓05.本間美術館
京都で生まれ各地に広がったお雛さま。面長で切れ長な目が特徴。女性の正式な座り方が片膝を立てる形だったため、袴で隠すためにあえて綿を入れて目一杯膨らませています。
↓01.致道博物館
公家や大名家で飾る豪華な雛人形。公家の装束を忠実に模して作られ、わざわざ人形用に布地を織って衣装に仕立てているそうです。
京都の人形師、雛屋次郎左衛門が制作した人形で、源氏物語絵巻に描かれるような丸い顔に細い目なのが特徴。公家や大名家に人気があったそうです。
↓05.本間美術館
江戸後期に古代雛を参考にして完成された人形。目に水晶やガラスを入れた華麗で精密なもので、公家の趣が強い有職雛とは異なり、豪華な刺繍や宝冠、大きなサイズなど華やかさが特徴。
↓01.致道博物館
↓02.龍の湯 蔵ギャラリー氷室
↓04.山居倉庫 「夢の倶楽」華の館ミュージアム
江戸幕府により、豪華で大きな八寸(24cm)以上の人形を庶民が持つことが禁止されたため、反動でより小さく精緻な細工を施された人形。
他にも種類はありますが、ざっくりと分けてみました。
その他後述しますが、趣向人形・御所人形と言われる人形を下段に飾ったり、子どもの成長や家族の幸せや健康を祈って作られた傘福↓03.山王くらぶと言われるものもあります。
前段が長くなりましたが、様々な種類を知った上でお人形を見ると見ないとでは、段違いに面白さが違います。
当時の職人の心意気やそれぞれの人形への想いを、実際に見ることで味わって戴けますと幸いです。
01.【鶴岡】致道博物館
最初の「雛めぐり」はこちらの致道博物館からスタートしました。
致道博物館は、旧庄内藩主 酒井家の御用屋敷跡に整備された博物館です。
館内に移築された移築された明治建造の国指定重要文化財「旧鶴岡警察署庁舎」などのモダンな建物は必見。
旧家伝来の優美なお雛飾りは圧巻の一言。衣装の美麗さがすばらしいです。
この古今雛は名工、末吉石舟(なんと100歳以上生きたそう)の作で、高さ約50cmもあり20年ぶりに展示したとのことです。
熊本藩細川家九曜紋・庄内藩酒井家酢漿草紋入り雛道具の一部です。
写真の画角におさまらず…貝合わせなどを含めると全部で362点あるそうです。
面長で切れ長な目の享保雛
また、鶴岡伝来のお雛菓子は、あまりの光沢と質感にガラスか何かで出来ているのかと尋ねてしまいました。
どれも本物の練り切りだそうで、市内のお菓子屋さんが様々に趣向を凝らして毎年作っているそうです。
みかんとバナナの練り切りが精巧すぎてビックリ
この時期「鶴岡雛物語展」と銘打って、鶴岡市内で例年イベントをやっているとのことでした。2021年は3月1日~4月4日開催です。
02.【鶴岡】龍の湯 蔵ギャラリー氷室
「温泉宿のひな祭り」として2021年は3月1日~3月30日のみ公開されます。
龍の湯は旅館名ですが、その敷地内に現存する「蔵」の中で、雛人形が展示されています。
蔵ギャラリー氷室
先代から受け継いできた古今雛
古今雛
三人官女も五人囃子もその表情は華やかで今にも動きそうです。
ちなみに現在の男雛と女雛の並びは向かって右が女雛、左に男雛が主流なのですが(昭和初期ごろから東京を中心にその並びに変化していったとか)、今でも京都を中心とした関西地区では右に男雛、左に女雛が主流だそうです。
お雛さまの両脇に居る「犬筐(いぬばこ)」
犬はお産が軽いため、安産などの意味があるそうです。お守りとしての意味もあったとか。
このような六歌仙などの時代人形を飾ったりするのも、江戸時代の粋な計らいだったそう。
平安時代の和歌の名人たち。
今年2021年はコロナ禍ということで、昨年より規模を縮小しての展示となり、鑑賞料も無料になるそうです。お人形は展示ガラスの中に飾られ、入り口近くには大きな屏風が立てられます。
大きな屏風
〒997-1201 山形県鶴岡市湯野浜2丁目4−47
Tel:0235-75-2241
庄内空港よりタクシーで約10分・事前予約すれば、庄内空港や鶴岡駅より無料シャトル便もあります。
03.【酒田】山王くらぶ
山形県酒田市へ移動し、始めにやってきたのはこちらの「山王くらぶ」です。
「西の堺 東の酒田」と言われるほど、海運による交易が盛んだったこの港町は、様々な商人や文化人が利用する料亭もたくさん存在しました。
明治28年建築の山王くらぶ。酒田市を代表する料亭だったそうで国の登録有形文化財になっています。
外観も素晴らしいのですが、内観は細やかに明治〜大正ロマンを偲ばせる美麗な意匠が盛り込まれています。
竹久夢二がこちらを拠点に画会を開いたりしたそうで、使用していた部屋が残っています。
2階の大広間は106畳もあるのですが、こちらで傘福特別展示「湊町酒田の傘福」を、2021年は2月28日(日)~10月31日(日)まで展示しています。
傘福とは、赤い幕を巡らし天蓋に見立てた傘に手作りした細工物を下げた吊るし飾りのこと。細工物の数も縁起の良い数(奇数)になっているそうです。
それぞれの細工物は、平和や富、幸せなどを願う意味が込められています。
一針一針心を込め、子孫繁栄や無病息災、家族の幸せを願い作った傘福を神社仏閣に奉納する風習がかつてはあったそうです。
こちらの「九百九拾九個の宝づくし」は、商人のまちならではの宝袋、蔵の鍵、小槌などの商売繁盛を願った縁起物の細工が連なります。
はっぴのデザインが粋だったので撮らせていただきました。
〒998-0037 山形県酒田市日吉町2丁目2−25
Tel:0234-22-0146
酒田駅よりタクシーで約10分・庄内交通バス(中町下車)約8分・市営循環バス(市役所東または市役所西下車)約8分
庄内空港よりタクシーで約20分
04.【酒田】山居倉庫 「夢の倶楽」華の館ミュージアム
酒田の人気観光スポット、山居倉庫の「夢の倶楽」は観光物産館内にあるミュージアムです。こちらに市内の旧家「加藤家」に伝わるお雛さまが展示されています。
山居倉庫「夢の倶楽」外観
山居倉庫「夢の倶楽」華の館ミュージアム
江戸時代後期に作られたこの古今雛は、男雛43cm、女雛40cm最大59cmと大変大きく、内裏雛2人の横に「ともに白髪になるまで仲良く暮らせるように」との願いが込められた「百歳雛」が並んでいます。「百歳雛」と言う歳を召した内裏雛が並ぶ非常に珍しい配置も面白いです。
加藤家のお雛さま
楽器を演奏する楽人たちのイキイキとした表情や、胡蝶を舞う舞人と言われる人形は、背中に蝶の羽を模したような細工が加えられていて、とても珍しいです。
こちらの「加藤家のお雛様」は、2月下旬〜4月初旬まで、無料にて公開されているそうです。
〒998-0838 山形県酒田市山居町1-1-20
Tel:0234‐22‐1223
JR酒田駅から車で約5分・JR羽越本線「酒田駅」から酒田駅大学線のるんるんバス約8分「山居倉庫前」下車・または山形自動車道「酒田IC」から車約15分
05.【酒田】本間美術館
最後に向かった本間美術館では、鶴岡市の実業家、斎藤昌二氏の収集した内裏雛・御所人形・衣装人形などの貴重な古典人形をはじめ、酒田の豪商・白崎家や林昌寺の雛壇飾り、今年、初公開の押絵雛壇飾り、全国の土雛人形など、多彩な人形が展示されています。
状態の良い立ち雛が今も所蔵されています。
丸い顔に引目鉤鼻が特徴の、品の良い次郎左衛門雛が飾られています。
ここにも犬筐(いぬばこ)がいました。すっかりファンです。
美術館の奥には、酒田の豪商・本間家の別荘「清遠閣(せいえんかく)」があり、江戸時代に商人として栄えた「白崎家」の壇飾りは、壇上に紫宸殿を模した木枠の中にお内裏様が並び、能楽や狂言の趣向人形や精巧な雛道具が、酒田の雛文化の深さを示しています。
「白崎家」の壇飾り
「林昌寺」の壇飾り
5箇所に渡って辿った「雛めぐり」、いかがでしたでしょうか?
私は今回、各人が自由な解釈で雛壇を飾っていた歴史を知り、今まで堅苦しい行事だと思っていた桃の節句を誤解していたことに気付きました。
また、そこまで裕福でない家庭でも、毎年少しづつお人形を集めていくコレクションの楽しみがあったことも知り、現代の女の子達のドールハウスやミニチュアなどの普遍的な遊びがそのルーツでもあったのかなと、非常に感慨深い気持ちにもなりました。
例年1月〜3月までホテル雅叙園東京で、百段雛まつりと言う雛祭りイベントをやっているそうなのですが(2020年は残念ながら中止、2021年は別イベントで規模を縮小して実施)、こちらに山居倉庫で飾られていた加藤家の古今雛が2019年「百段雛まつり」で展示貸し出されていたとのことなので、来年以降、ぜひ観に行ってみたいと思います!
*取材時期:2020年3月