tabinoteワタベです。「第123回 ボストン・マラソン」参戦記の後編です。
レース当日
いよいよ4月15日のパトリオット・デイ当日。4月のボストンは天候も不安定。2018年には吹雪になるほどの寒気でしたが、2019年は高温かつ高湿、基本は雨の予報でした。
市街中心部からスタート地点までは選手専用のバス移動。スタート順が早い私は朝6時のバスが割り当てられています。5時にUberで会場移動、ゴールで受け取る荷物を預け、バスに向かいます。このバスの台数がすさまじく、戦争映画(数万の陸軍歩兵を運ぶシーン)でしか見ないような長大な列です。そもそもゴールから42km離れた地点まで3万人以上のランナーを運ぶという発想が日本ではまず考えられません。伝統とはいえそれを維持しつづけることのすごさをあらためて感じました。
雨はときおり激しさをまし、道路が冠水していたためバスが途中で止まるほどでした。全く降り止む気配のないままスタート会場に到着。
2013年に発生したボストンマラソンテロ事件の影響か、スタートへの持ち込み荷物は厳密に制限されており、小さい透明ビニールバッグに入る程度の水や食料などしか携帯できないことになっています。しかし、実際はスタートまで身体を休める敷物(アルミシート、段ボールなど)や保温のための衣類なども持ち込まれていました。
雨天のため待機テントはぎっちぎちに混雑していましたが、私もアルミのエマージェンシーシートを敷物にして身体を休めました。
トップのエリート選手は10時スタート。私は10時5分スタートです。スタート会場からスタート地点までかなり(1kmくらい)歩きます。
スタート地点ではセレモニー。アメリカ国歌斉唱のエンディングに続いてなんとジェット戦闘機が2機飛来!このお約束は知りませんでした。最高にテンション上がりましたね。
(拾いものの動画;2:40からジェット機が飛来)
ボストンはニューバランスの本拠地ですが、レースのオフィシャルスポンサーはアディダス。ただしランナーの足下は千差万別で、ナイキの厚底やアシックス、スイスのOnなども目立っていました、
周囲のランナーは厳しいクオリファイを乗り越えてきただけありいかにも速そうに見えます。整列はコラールと呼ばれる番号順となっており、おおむね同じようなタイムの人が集まるようになっていますが、脚の血管がバキバキ浮き出たような猛者ばかり。日本人は見かけませんでしたが、アジアでは台湾・中国・韓国が多めでした。
いよいよスタート!。最初は下り基調で、いやがおうにもペースが上がります。最初の1kmは3分50秒!
下りとはいえ私の実力からは速すぎ、落ち着いてペースを下げます。
湿度100%、体感摂氏15度くらいの過酷な天候でしたが、下り基調のコースと周囲のハイペース、沿道のものすごい声援につられ、なかなか脚を緩めることができません。ムリにセーブせず、後半までスタミナが持つよう気持ちよく走ることに意識を向けました。
120年以上の長い歴史を持つ大会。沿道の家々も応援がこなれています。
通り一遍の「がんばれー」などではなく、
「お前はすでに勝者だ!」
「ボストンを走れることがうらやましいぞ!」
「お前たちはオレたちの誇りだ!」
などなど、とにかくメッセージが熱い!
この熱いメッセージが老若男女、とにかく一刻もとぎれず沿道の両側からサラウンドで響き渡るのです。これはランナー冥利につきますね。
前半の下り基調が終わり、アップダウンをくりかえす中盤にさしかかりました。この頃から日差しが出始め、体感温度があがってきます。脱水にならないように1マイルごとにある給水所でゲータレードを補給することにしました(ゲータレードは本大会のオフィシャルスポンサー)。補給のたびにタイムが落ちますが、後半脚がとまるよりはマシです。
ボストン名物がこの20km付近のウェンズリー大学における女子大生の応援。かのヒラリー・クリントンを輩出したという由緒ある女子大学ですが、女子大生が「Hug me」「Kiss me, I am single」などのボードを出して熱狂的な応援をすることから、「スクリーム・トンネル」と呼ばれています。
(拾いものの動画)
とはいってもしょせんそんな応援が得られるのは白人だけだろ…、とひねくれた私は、適当に挨拶しながらペースを緩めず進みました。この一帯で順位を大幅に上げたと思います。もっとも、このウェンズリーのあたりはアップダウンが脚にダメージを与えつつある区間でもあり、応援が励みになるのは間違いないでしょう。
中間地点をまずまずのペースで通過。ただし後半は上り坂も多く、前半よりもタイムを上げるのは困難です。欲張ったタイムを目指すのはやめ、最後までペースダウンしないことを目標に据えました。
30km付近、いよいよボストン名物の「心臓破りの坂」ことHeartbreak Hillです。たしかにダラダラと長い上りが続きましたが、途中で下りもあったかな?よくわからないうちに「ここが坂の最終地点」という看板を見かけ、難所を抜けたことを知りました。
Heartbreak Hillを抜けると基本下り基調です。このあたりからは、猛暑と湿度でペースダウンするランナ-、ふくらはぎが痙って走れなくなるランナー、ゲータレードの飲み過ぎでリバースするランナーなど、明暗が分かれてきます。
私といえば脚が痙る気配もなく、快調そのもの。少しずつペースを上げ、前半におい抜かれた数々のランナーを追います。余裕で走っているのにバンバン落ちてきたランナーをまくるのは最高の気分ですね。
そして、市街中心部に近づくにつれ歓声がすごい!少しでも走っている人なら、これはちょっと感動するのではないでしょうか。
ラストは全力でとばし、いよいよゴールへ。
完走メダルを受け取ります。祝福の拍手と歓声。中盤の坂でペースダウンしたせいかタイムは期待ほど伸びませんでしたが、伝統のレースを最後まで走り切れた達成感がおしよせてきます。なぜこのレースが「選ばれしもののマラソン」と呼ばれているかの理由がわかった気がしました。
ゴール周辺をダラダラ歩き、アディダスの特設ブースにマッサージサービスを受けに行きます。
ブース内で巨大なモニターを見ていると、ノートルダム大聖堂から出火のニュース。そう、ちょうどこの日にあの火災が起きたのです。おそらくフランス人と思われるランナーがテレビ画面を見て、文字通りヒザから崩れ落ちていました。愛国者の日だってのにね…。
マッサージを終えて宿に戻り、シャワーを浴びて街に出ました。
夕方近くになってもランニングシャツとジャケットを着たランナー達が充実感にあふれた表情をうかべて歩いていました。
レース当日の夜には、ボストン・レッドソックスの本拠地であるフェンウェイ・パークがランナーに開放されます。残念ながら期待したよりもしょぼかったですが、みなさん疲れて早々に宿に戻ったのかもしれません。
レース翌日
得てしてレース翌日は天候に恵まれるもの。この日も雲1つないクリアな空がひろがっていました。マラソンあるあるですね。
この日はゴール付近のスポーツ店「Marathon Sports」で完走メダルに名前やタイムを無料で刻んでくれるというイベントがあり、朝から並びました。
翌日になってでもレースジャケットを着た人をそこかしこで見かけます。レースの興奮が忘れられないのでしょうか。メダルをかけたままの人すらいます。気持ちはわからなくもありません。あの祝祭の雰囲気を1度味わったら、病みつきになるでしょうね。私にとってもボストン・クオリファイをクリアし続けることが1つの励みになりました。
というわけで、第123回ボストン・マラソン参戦記をおとどけしました。
最後に、知っていると便利な知識をご紹介します。
コツ・Tips
宿の予約は早めに
ボストンのホテル供給はそれほど潤沢ではなく、レース期間中はしょぼい宿でも一泊300ドル、400ドルとAPAホテル並みに高騰します。確実に参加可能なタイムをお持ちであれば、エントリー開始前であっても宿をとって備えておいた方がよいでしょう。航空券も同様です。
できればEXPOは前々日に行っておく
ゼッケン引き替えのEXPOはグッズ販売も行われていますが、広い会場を歩かされる疲労の蓄積もバカになりません。できれば前々日に諸手続をすませ、前日はゆったり過ごしたいところです。
Tシャツやシューズなどのオフィシャル・グッズも日本人の多くに適合するSやXSから売り切れていき、前日にはLなどしか残っていません。前々日であれば購入できる可能性が高いと思います。
どうしてもほしいオフィシャルグッズ(アディダス)は事前にWEB購入
アディダスUSのサイトでは、オフィシャルグッズの購入や店舗受け取りが可能です。EXPOですぐ売り切れてしまうシャツやシューズは、渡航の前にネット購入しておき、ボストンや経由地の店舗で受け取れるようにしておけば買い逃す心配やEXPOで長打の列にならぶ必要がなくなります。もちろん滞在先のホテルに配送を手配してもいいですね。
スタート会場には敷物を持参
スタートへの持ち込み荷物は厳しく制限されていますが、スタート時点まで脚を休めるための敷物などを持ち込むランナーは少なくありませんでした。最悪没収されてもおしくないような100均アイテムを持参していくのがおすすめです。
レース前半はとにかくおさえる
前半は下り基調で、ほっておいてもペースが上がります。しかし下り坂が脚にダメージを与えながら後半必ずリベンジしてきます。ハーフまでは少し余裕過ぎるくらいでちょうどいいでしょう。ウェンズリー大学をにこやかに通過できれば楽しく完走できると思います。
グッズ購入の穴場はケンブリッジの「Marathon Sports」
ゴール付近にある「Marathon Sports」はレース前日から翌日にかけ入場制限をするほど混雑します。北のケンブリッジ支店はそれほど混雑しておらず、サイズも豊富に残っており穴場としておすすめです。