「タビノート」下川裕治:第97回 チベット航空は中国国際航空?

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 中国のLCCは存在感が薄い。世界を席巻するLCCだが、中国という世界は、別の文脈をもっているようにも思う。
 日本に春秋航空というLCCが就航している。日本の国内線にも参入している。そこから想像すると、中国国内には、さまざまなLCCが就航している気になる。しかし運航しているのは春秋航空だけのように映る。
 成都から上海まで向かうことになった。検索サイトをみてみた。さまざまな省をベースにした航空会社が出てきた。春秋航空はそのなかのひとつの感すらした。
 チベット航空が運航時間もよく、運賃も手頃だった。上海の虹橋空港に着くのもありがたかった。市内に出るにはこの空港のほうが楽なのだ。
 チベット航空にも興味があった。ひょっとしたら、チベット料理の機内食が出るかもしれない。
 預ける荷物は無料だった。女性の客室乗務員の服装はチベット風だった。しかし機内食は、はまったくの中国式だった。食事を先に出し、その後で飲み物という中国式サービスも踏襲されていた。
 機内食を前に、不思議な気分を味わっていた。どこかで見たスタイルなのだ。ご飯の固め方、料理の種類……。中国国際航空だった。そっくりなのだ。チベット航空は、さまざまな面で中国国際航空と提携しているようだった。
 世界のレガシーキャリアはいま、LCCをとり込もうとしている。LCCスタイルの子会社をつくるのもそのひとつ。LCCの別ブランドをつくることも多い。
 しかし中国のレガシーキャリアにその動きはない。中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空といったレガシーキャリアは、一見、昔のままだ。だが中国には別の動きがある。各省が経済力をつけ、独自に航空会社を設立しているのだ。中国の各省は、一国並みの人口と経済力を備えるようになってきている。
 そのなかにもレベルがあり、四川航空や天津航空は独自に運航しているが、後発の規模の小さな航空会社は、中国のレガシーキャリアの傘下に入ることが多い。
 チベット航空は中国国際航空のグループというわけだ。逆に見れば、中国国際航空は、チベット航空を、ほかの国のレガシーキャリアがつくるLCCのような存在にしているわけだ。
 中国の空のLCC化は、こんな進み方をしている。その動きはかなり激しい。
 中国の空は、独自の進化系のなかにいるようだ。


これがチベット航空の機内食。チベットのにおいはどこにもない