「タビノート」下川裕治:第114回 これがパンデミックの終わり?

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する文章著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

  世界各国の入国制限が少しずつ安定してきたように思う。昨年の3月、新型コロナウイルスの感染が拡大し。世界の国々は入国規制に踏み切った。入国時にはPCR検査の陰性証明を提出するといった簡単なものから、ホテルの隔離といった措置をとる国も多くなった。国によっては、国境や空港の閉鎖に進み、鎖国状態にした国も少なくない。
 しかし、それまで自由に行き来をしていた環境をズバッと閉じると反発も大きい。そこで感染が収まってくると、規制を緩和していく。しかし新型コロナウイルスに限らず、感染症というものは、人と人が接する機会が増えれば広がっていく。と、再び入国規制。それを繰り返してきた国は多い。日本もそのひとつだ。
 昨年の3月以来、各国の規制情況をチェックすることが癖になってしまった。もちろん、渡航できる国を探すことが目的だが、深夜、モニターに示された、規制内容を見ていると、入国規制の動きや地域性も見えてくる。
 欧米の入国規制は緩い。それに比べるとアジアの国々は神経質だ。その中間に南米やアフリカがあると思っていい。
 昨年末は典型的だった。アジアはその門を閉じていたが、ヨーロッパへはほぼ自由な渡航が可能になった。航空券の予約直前まで進んだが、最終的には日程があわず、断念した。
 その状況を一気に変えたのがイギリス株と呼ばれた変異ウイルスだった。ウイルスは突然変異を繰り返していくが、感染が広まり、期間が長くなれば、変異株が生まれる確率も高くなる。
 ヨーロッパの人々は、新型コロナウイルスのしぶとさを実感した時期だといってもいい。
 いまの情況は昨年末と似ているかもしれない。ヨーロッパの多くの国が、日本人の自由な渡航を許可している。クロアチアのように、ほとんど制限がない国もある。
 しかしヨーロッパや日本、いや世界は、変異株であるデルタ株の感染拡大のただなかにいる。しかし入国規制はあまり変わらない。その理由のなかではワクチンが占める割合が大きいかもしれないが、なにかひとつの大きな山を越えた気がする。
 航空会社もその空気を感じている。今年の秋をめどにした動きが急だ。ワクチンパスポートも、当初は差別につながるという懸念が横たわっていたが、海外渡航に限定した形で発行される動きになった。航空会社からの圧力が各国の政府にかかっている気もする。
 ワクチンを2回接種すれば、隔離やPCR検査を免除する国が次々に現れている。この流れは、新しい変異株が出現してきても変わらないという空気が世界を覆いはじめている。
 パンデミックの終わりとは、こういう空気感なのだろうか。


成田空港も正常化への準備が進んでいる?