下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治
LCCは大学生の卒業旅行の足として、完全に定着した感がある。
最近の卒業旅行は、ヨーロッパやアメリカに1回、近場のアジアに1回というパターンが多い。ゼミやサークルというより、高校時代からの仲のいい友達との卒業旅行と、大学での知り合いの旅に分かれるのだという。
学生だから、運賃やツアーの内容をネットで検索するところからはじまるのだろう。ヨーロッパはツアーを選ぶ学生が多い。値段から中近東系や中国系の航空会社を利用することになるだろうか。
近場のアジアは、ツアーというより、2~3人で、自由に旅をするタイプが好まれるという。一応、ホテルは予約するから日程は決まっている。問題はいかに安く旅行の費用を抑えるかにかかってくる。
首都圏の大学生のアジア行きで選ぶ航空会社を見ると、エアアジアXとスクートというLCCが上位にくるらしい。LCCは韓国や台湾、中国などへのフライトがあるが、卒業旅行だから、もう少し遠くを選ぶ。タイ、マレーシア、シンガポール、カンボジア、ベトナム、ミャンマー、インドネシアあたりだろうか。そこへのLCCを考えると、羽田とクアラルンプールを結ぶエアアジアXと成田とシンガポールを結ぶスクートになってくる。どちらもLCCとはいえ、大型機を使っている。
3月に入り、スクートに乗ってシンガポールを往復した。スクートが成田とシンガポール間を台北経由で就航したとき、こんな話を聞いた。
「台北―シンガポール間は、台湾人ですぐに埋まるんです。問題は成田―台北間。この区間の搭乗率を増やしたい」
しかしこと3月に限れば、それは杞憂のようである。
成田空港を出発したとき、満席に近かった。学生が多い。
「こんなに台湾に行く学生がおおいのだろうか」
と首を捻った。中国と韓国が政治的なトラブルで敬遠されるなか、日本人旅行者は台湾に流れているとは聞いていたが……。
台北でのトランジットを経て、再び乗り込んだ。すると僕のまわりの顔ぶれはほとんど同じだった。学生たちは成田―シンガポールというルートだったのだ。おそらく乗客の6割は日本人だった気がする。台北から乗り込んでくる台湾人はそう多くなかった。
彼らが開いているガイドブックを見ると、シンガポール、バリ、タイ、カンボジアあたりが多い。
彼らはLCCのルールもしっかりわきまえているようだった。荷物も小さくまとまり、映画をタブレットにとり込んでいた。
いまの学生たちにとって、LCCはあたり前の足になっていた。