「タビノート」下川裕治:第50回 寝ることをついに許した?

Profile
shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 前号に続く成田空港の第3ターミナル。今年4月、LCC専用ターミナルとしてオープンした。
 LCC専用ターミナルとしては周回遅れの感がある。それを物語るように、成田空港に就航するLCCのなかで、第3ターミナルに移ったのは5社に過ぎない。運用や利用料の面でメリットを感じることができないのだろう。
 しかし後発のLCC専用ターミナルだけあって、おそらく世界のLCC専用ターミナルのなかでは、いちばん使い勝手がいいかもしれない。そのポイントはフードコートと横になって眠ることができるソファベンチだろうか。
 フードコートというのは、たくさんテーブルの周りを飲食店が囲むスタイルの施設である。この食堂スタイルは、LCC専用ターミナルではないが、いくつかの空港で採用されている。香港、ソウル、バンコク……などだ。日本の空港ではあまり見かけなかった。LCCという名のもとで実現したのだろうか。ハンバーガー、麺類、コーヒーなど、東京ではおなじみのチェーン店が出店している。朝の4時から開店する店が多い。LCCは早朝便が多いからだろう。
 秀逸なのは、横になって寝ることもできるソファベンチである。早朝便に乗るためにバスでやってくる場合、徹夜や睡眠1時間といった状態になる。フィードコートを囲むようにつくられたソファベンチはありがたい存在かもしれない。
 世界の空港のベンチは、眠りにくい構造に苦心してきた。横になることはできても、椅子の突起が背中にあたったり、なかには手すりをつけて、横になることを防ぐようになっていた。空港で眠ることがいけないわけではないが、ひとりで椅子何個分も占有してしまうことを防ぐことが目的のように思う。
 僕は那覇行きの朝便に乗ったが、何人かが寝ていた。子供や欧米人が目についたが。
 しかしソファベンチを置くことができるのは、利用客数が少ないからだ。クアラルンプールのLCCターミナルを見ても、便数や利用客が多く、座る場所探しにさえ苦労するほどだ。
 できるならこのソファベンチを世界の空港に普及させてほしいと思うが、それがままならないのが世界の空港事情である。
 ソファベンチは第3ターミナルのPR素材にも映る。

DSCN1666
雨天用の通路。これはほかの空港でも採用してほしい