下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治
9月の末、カンボジアのプノンペンからバンコクまでエアアジアに乗った。直前の予約だったせいか、いつもよりだいぶ高く、片道1万円を超えた。
待合室には大陸から来た中国人が多かった。アンコールワット観光とバンコク──そんなツアー客のようだった。
乗り込むと、彼らの席は赤いシートカバーのかかった席に集中していた。やや高い席である。後ろ側には、空席があり、何人かの中国人がそちらに移っていった。
ひとりが座った席が、非常口のあるところだった。そこに座るとき、説明を受けることが多い。非常時には協力するという同意を得なくてはならないのだ。しかしタイエアアジアの客室乗務員はタイ人。英語とタイ語。英語で説明しても、中国人はなにもわからない様子でパスポートを見せるだけ。客室乗務員も困り、結局、その乗客は赤いシートカバーの席に戻ることになった。
最近、東南アジアを飛ぶエアアジアに乗って思うのだが、中国人観光客が目立つのだ。ときに彼らの専用飛行機ではないかと感じることすらある。
2年ほど前、クアラルンプールからマレー半島の東海岸にあるクアラトレンガヌまでエアアジアに乗った。クアラトレンガヌの沖の島には、中国人ご用達ともいっていいリゾートがあるそうで、機内は中国人で埋まっていた。
マカオでこんな話を聞いた。マカオにやってくる中国人のなかに滞在許可が1週間という人がいる。ギャンブル好きのなかには、1週間では博打の血が収まらないタイプもいる。中国に戻ると、一定期間、マカオにやってくることはできない。しかし外国に一歩出ると、さらに1週間のマカオ滞在許可がもらえるのだという。
そんな人はマカオから安い飛行機を利用するのだが、それがエアアジアのバンコク線らしい。彼らはバンコクにタッチするようにしてマカオに戻ってくる。
僕は何回かバンコクーマカオ線に乗っている。そのたびに、
「どうしてこんなに中国人が乗っているんだろう」
と思っていたが、そのなかにはギャンブル好き中国人がかなりいたらしい。
エアアジアは採算を見込んで路線を決めていく。そのときの重要な要素が、中国人が乗るか、どうか……のような気がしてならない。いや、中国人がエアアジア好きなのか。そんなことはないと思うのだが。