「タビノート」下川裕治:第103回 運航の正常化は10月?

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 長い目で眺めれば、一過性のことなのかもしれないが、いま、世界の航空会社は危機的な状況に置かれている。新型コロナウイルスの感染が広まり、各国が人の動きを制限するなかで、搭乗客が激減。減便や運休が相次ぎ、世界の空港はどこも巨大な駐機場になってしまった。いつ運航が再開されるのか、そのめどもつきにくい。
 ユナイテッド航空からメールが届いた。僕はユナイテッド航空のマイレージを貯めている。マイレージのステータスを2022年1月まで自動延長するという内容だった。加えて、今年後半の搭乗が反映されるステータスの獲得目標を半減させる内容も含まれていた。
 今年後半? ユナイテッド航空はそう読んでいるらしい。
 タイの航空会社はすべてのフライトを停止している。現地からの報道では、6月1日から徐々に戻していく予定だという。バンコクポストの電子版は、タイの空港が正常に戻るのは、10月1日以降という、空港関係者の予測を報じている。
 航空業界が抱える難しさは、1国の感染が沈静化しても、そこから向かう国の感染が収まっていなければフライトが成り立たないことだ。新型コロナウイルスへの対応策は、世界のグローバル化とは逆のベクトルが働いているからだ。イスラエルの歴史学者のハラリが唱えるように、国際協調がなければ、航空業界は正常な状況に戻っていかない。
 業界では、さまざまな噂が飛び交っている。運航が再開されるまで資金力がもつかどうかの憶測である。もともと規模が小さかったLCCへの危惧も多い。民間主導型の経営が多かったから、政府からの援助も受けにくいという体質が追い打ちをかける。今年、LCCの再編成のような話がもちあがるかもしれない。
 アジアでいえば、韓国と香港の航空会社が苦しい。韓国の航空会社は、日韓問題に左右され、新型コロナウイルスが広まる前から業績が悪化していた。香港は民主化運動の影響を受けていた。リーマンショックの後、アメリカの航空業界の再編成があったが、同じようなことがこれから起きるかもしれない。
 運航が再開されれば、LCCなどはかなりの値引きをして利用客を戻そうとするだろう。それにどれだけ反応するかでまた、国民性が見えてくるという。
「SARS後の香港に最初に戻ってきた観光客は欧米人。最後が日本人だった」
 当時、香港にいた駐在員は振り返る。日本のLCCはそこまで見据えたほうがいいのだろうか。


アシアナ航空。厳しい状況が伝わってくる