「タビノート」下川裕治:第80回 アルマトイ空港の綱渡り

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 航空券の検索サイトを通して買うチケットは、ときに不安になることがある。とくに乗り継ぎ航空券の場合に多い。安さに惹かれて購入してしまったのだが、はたしてうまく乗り継げるのだろうか。ある程度の経験を踏んでくると、過去のトラブルが頭をもたげてくるのだ。
 ウズベキスタンのタシケントからソウルまでの片道航空券である。検索して見つかったものは、タシケントからカザフスタンのアルマトイまでウズベキスタン航空に乗り、アルマトイからソウルまでは韓国のアシアナ航空に乗るというものだった。
 2社の乗り継ぎ……。いちばん煩雑なケースだ。1社の乗り継ぎなら、通常、最初のフライトにチェックインしたとき、乗り継ぎフライトの搭乗券もくれる。預けた荷物は、そのまま積み替えてくれる。一般にスルーといわれるシステムである。
 しかし違う航空会社となると……。
 不安を抱きながら、タシケント空港のチェックインカウンターに並んだ。男性スタッフは、カタカタとなにやら打ち込み、パスポートのデータを読み込ませながら首を捻った。そしてこういった。
「荷物はスルーできますから、ソウルで受けとってください。ただ、アルマトイから先の搭乗券はシステムが違うので発券できません。アルマトイで受けとってください」
「アルマトイで再チェックインするってことですか? するとカザフスタンに入国しないといけなくなる」
 乗り継ぎ時間は1時間半。これは綱渡りになる。するとスタッフは再度、画面を確認しながらこういった。
「入国しなくていいです。乗り継ぎカウンターに行ってください」
 はたしてどうなるのか。
 アルマトイの空港で乗り継ぎカウンターに向かおうとしたのだが、それらしきものがない。訊くと、カザフスタンのアスタナ航空の乗り継ぎカウンターへ行くようにいわれた。
 そこに出向いた。するとなんのチェックもせず、ここで待てという。
「待つ?」
「エージェントのスタッフが来ますから」
「エージェント?」
 待つしかない。15分、20分……時間はすぎていく。乗り継ぎ時間は1時間半しかない。すでに40分を切っている。アスタナ航空の乗り継ぎカウンダ―に確認をしても、スタッフは、「待ってください」としかいわない。あと30分──。
 イミグレーションの脇を抜けて、ひとりの女性スタッフが駆けてきたのはそのときだった。
 それから10分。ようやく搭乗券を手にした。
「ふーッ」
 これからもこんな乗り継ぎを繰り返していくのだろうか。


タシケントの空港でウズベキスタン航空に乗り込む。出発が遅れないか気にかかった