下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治
これからのLCCはどの方向に向かっていくのか……。さまざまな見解があるのだろうが、長距離化、短距離化はひとつの流れでもある。LCCは中距離路線を得意にする航空会社群としてスタートした。エアバス320とボーイング737という燃費のいい飛行機を使うことができることもその要因のひとつだった。飛行時間にして1時間~3時間。そんなフライトが多い。
しかし拡大するLCC路線は、もっと長い路線や短い路線に触手を伸ばしていく。
日本に乗り入れている長距離LCCではエアアジアXとスクートがある。エアアジアXは羽田や関空とクアラルンプールを結んでいる。スクートは成田とシンガポールだ。この2社はLCCのノウハウをとり入れた長距離LCCである。
東南アジアのLCCを眺めると、短距離LCCが路線を急激に伸ばしている。タイのノックミニやマレーシアのファイアフライなどが目につく。ノックミニは、タイのLCCであるノックエアが短距離路線のフライトにつけた名称。ファイアフライは、マレーシア航空がつくったLCCだが、中距離路線のほかに短距離路線をもっている。両社とも、短距離路線に使っているのは、ATR―72というプロペラ機だ。日本の空には飛んでいないので、なじみが薄いかもしれない。
先日、ノックエアでバンコクからナンまで利用した。ATR―72だった。
予約方法やシステムは、通常のノックエアとまったく同じだった。プロペラ機を使うからといって、特別なことはない。68人乗りだった。中央の通路を挟んで左右に2席。席の間隔もノックエアに倣っていた。
通常のLCCとの違いといえば、プロペラ機のため、時間がややかかることだろうか。
ノックエアは短距離路線以外に乗客の少ない小さな町へのフライトにプロペラ機を使っている節がある。通常のLCCでは採算のとれない場合は、プロペラ機という発想だろうか。
日本の国内線は、ようやくLCCが定着してきた感がある。その先はプロペラ機のLCCだろうか。離島路線や小さな空港をLCCが結ぶことは、住民への貢献率が高い。