「タビノート」下川裕治:第108回 迷走する観光客の受け入れ

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 迷走が続いている。
 タイの観光客受け入れの動きだ。
 コロナ禍のなか、世界の多くの国が入国を制限している。しかしいつまでも観光客に対して空港を閉鎖するわけにもいかない。航空業界の赤字は膨らんでいる。外国人観光客を受け入れてきた業界は収入が途絶えている。とくに観光に依存してきた国は苦しい。
 そこで観光客を受け入れる動きが出てくるのだが、これが難しい。新型コロナウイルスの侵入を防ぐのは大変なことなのだ。2週間の隔離は有効だが、これに応ずる観光客はまずいない。空港は閉鎖するより、開くことのほうがはるかに難しいのだ。とくに感染を抑え込んだ国ほど難易度が高くなる。
 タイはその典型だ。感染は抑え込んでいる。しかし観光業界は青息吐息。
 そこでプーケットモデルともいわれるプランがつくられた。日本が冬を迎える時期が、プーケット観光の稼ぎどきである。対象はビザのない観光客である。
 滞在は30日以上。入国後、15日間は隔離される。ホテル代は全額前払い。つまりパッケージツアーに近い。それも高額の。この参加者に対して特別観光ビザを発給するというものだった。資金と時間に余裕がある人が対象になる。
 筋からいえば、全世界に向けたものだったが、タイ政府は中国へ秋波を送る。噂では各大使館や領事館がダイレクトメールを送ったらしい。
「100万円を超える費用がかかる。これを払う人がある程度集まるのは、中国しかないと考えたんでしょうね」
 バンコクの旅行会社の社長は語る。
 そして10月8日、100人を超える中国人が広州からやってくると発表された。広州からプーケットまでチャーター便も用意された。
 ところが、「参加者が集まっていない」という噂が流れる。そして10月8日の予定は25日まで延期という発表。しかし20日、突然、上海から40人が、特別観光ビザでバンコクに入国した報道が入ってくる。定期便を利用した渡航だった。おそらくチャーター便を出すほどの人数が集まらなかったのだろう。
「水面下でなにかありましたね。タイ政府は特別観光ビザをつくった以上、なにかしらの成果をあげないといけない。それに応じた中国人。においますね。なにかのメリットがないと、中国人はこないでしょ」
 迷走は続きそうだ。中国が絡んでいるだけに、話はかなりややこしい。


20日の入国は前日の夜の発表だった。隔離先はバンコクのホテル。プーケットはどうなるのだろう(バンコク・スワンナプーム空港)