「タビノート」下川裕治:第85回 中国各省の航空会社の縦横無尽

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 最近、中国に行くことが多い。その都度、航空券の検索サイトを通して航空券を買っているが、その傾向が実に読みづらい。
 中国には中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空といったレガシーキャリアがある。それに対して春秋航空というLCCが運航している。しかしほかの国と違うのは、上海航空、吉祥航空、四川航空、天津航空、山東航空といった、省や街をベースにした航空会社があり、それが多くの路線をもっていることだ。なかには日本に乗り入れる航空会社もある。
 中国の省といっても、その人口や経済力は、小さな国ほどあるから当然ともいえるのだが。
 これらの航空会社がかなり安い運賃を打ち出している。
 しかしこれらの航空会社群はLCCではない。しかしLCCより安い運賃になることが珍しくない。春秋航空の存在感は高くない。
 バンコクからカシュガルに向かった。途中のウルムチまでで、最安値をつけていたのは山東航空だった。路線はバンコクから昆明を経由し、ウルムチに向かう。ウルムチからカシュガルまでは天津航空が安かった。
 バンコクから乗り込んだが、乗客は19人しかいなかった。機材はボーイング737。全員、中央付近の席に集められた。
 昆明からはかなりの乗客が乗り込み、ほぼ満席になった。時期は国慶節間近。中国では人の移動が多くなる時期だった。ウルムチからカシュガルまでの便も乗客は多かった。
 ウルムチの空港で発着便を見た。天津航空はウルムチのある新疆ウイグル自治区内の多くの路線を飛んでいた。
 悩んでしまった。天津航空のハブは天津である。天津は中国沿岸部。新疆ウイグル自治区とはかなり距離がある。それ以前に、天津と新疆ウイグル自治区の間に、なにか深い関係があるとも思えない。
 山東航空は山東省の航空会社である。ハブ空港があるのは、山東省の済南である。その航空会社が、バンコクー昆明―ウルムチという路線を飛んでいる。山東省とは縁もゆかりもないのだ。フライトも不思議だった。本来はバンコクーウルムチ間を飛んでいるようだった。ところが昆明で入国審査が行われ、ウルムチで到着したのは国際線ターミナルだった。
 中国の各省に生まれた航空会社は、中国内を自由に運航できるということなおだろうか。つまり客の多い路線の奪い合い?
 なにかもう少し整理してくれないと、なんだか気持ちが悪い。そう思ってしまうのは、僕が日本人だからなのだろうか。


ウルムチの空港に駐機する天津航空。なにかしっくりこない