「タビノート」下川裕治:第81回 独立系LCCは風穴を開けただけだった?

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 Tabinoteの配信が100回──。僕自身も長く連載を続けさせてもらっている。LCCを中心にした飛行機事情という内容である。スタート当初の記事を振り返ってみると、文章の端々にLCCへの高揚感が漂っている。10年近く前、世界の空はLCCをめぐって揺れていた。利用者は「もっと安い航空券」に期待し、航空業界は激しいシェア争いの渦中にいた。
 月に何回かLCCを利用する身としたら、次々に登場するLCCやその運賃に一喜一憂する日々だった。LCCは急成長し、その勢いに乗って長距離路線にも進出した。そのあたりから潮の流れが変わってきた気がする。長距離路線はレガシーキャリアに一日の長があり、長距離LCCに対抗する運賃を打ち出してきた。シェアを守ろうとしたわけだ。
 その結果、中・短距離はLCC、長距離はレガシーキャリアという色分けになっていった。
 一時期、この役割分担で落ち着いたのかに見えた。ところが、ここ2~3年、LCC内で構造変化がおきつつある。
 LCCを牽引してきたのは、エアアジアや春秋航空、チェジュ航空といった独立系LCCだった。欧米も同じ状況である。それに対して、レガシーキャリアが完全子会社のLCCを設立し、独立系VS航空会社系の競争という傾向が出てきたのだ。レガシーキャリアがLCCの収益性を認め、それをとり込もうとしはじめたことになる。
 早くからこの動きが出たのが日本だった。エアアジアと全日空の共同出資のエアアジア・ジャパンが生まれたが、結局は全日空の完全子会社のバニラ・エアになってしまった。エアアジアはその後も、新たな提携をつくり頑張ってるが、なかなか路線を増やすことができない。日本の空は、レガシーキャリアの完全子会社や共同出資のLCCに染まってしまった。
 これは喜べない傾向である。競争の論理が減り、最終的に運賃が高くなってしまうからだ。
 この動きを見ていたのだろうか。次々にレガシーキャリアの完全子会社LCCが登場している。大韓航空のジンエアー、アシアナ航空のエアソウル、ガルーダインドネシア航空のシティリンクなどだ。ノックエアやスクートはもともとレガシーキャリアの子会社である。タイガーエア台湾もエアーチャイナ系である。
 航空券を検索すると、最近はこの子会社LCC組が最安値をつけることが珍しくない。最近、ジャカルタからスラバヤ、東京―ソウル間でLCCに乗ったが、子会社LCCになってしまった。ソウル路線は、イースター航空が同程度の金額を出していたが、予約がなかなか通らなかった。そこへいくと子会社LCCはさくさく進む。レガシーキャリアがつくったサイトだから経験が生きているのだろう。
 資本力と経験では、レガシーキャリアがうわまわっている。航空業界に風穴を開けた独立系LCCはいま、危機感に包まれている気がする。


インドネシアの地方空港でもこの機体をよく見かけるようになった


ジンエアーでは機内で無料の軽食がでた