「タビノート」下川裕治:第94回 ミャンマーの航空会社は蚊帳の外

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。

たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 バンコクからミャンマーのマンダレーまでの便を探した。スカイスキャナーで検索する。
「これだけ?」
 直行便は、タイエアアジアとバンコクエアウェイズの計4便だけだった。以前はほかの航空会社も運航していた気がする。たしかミャンマーの航空会社も就航していた。採算がとれず、撤退してしまったのだろうか。
 タイエアアジアを選んだ。乗ってみるとほぼ満席だった。マンダレーの空港のイミグレーションは、ミャンマー人と外国人でブースが違う。その人数を眺めると、乗客の大半はミャンマー人だった。
 これだけミャンマー人が利用するのなら、ミャンマーの航空会社が就航しても……とつい思ってしまう。
 東南アジア諸国の航空会社をみると、ミャンマーとカンボジアがどうもうまくいかない。LCCに限定するわけではないが、これまでも何社かが就航し、はじめこそ路線を増やすのだが、いつの間にか便数や就航路線が消えていく。そして最後には、航空会社も姿を消してしまう。そんなことを繰り返している。
 その最たる国がカンボジアだが、ミャンマーの航空会社も脆弱だ。バンコクとヤンゴンの間には、国営のミャンマー・ナショナル航空とミャンマー国際航空が就航しているが、料金的にはかなり高い。ミャンマーの国内線で運行している航空会社は、なかなか国際線に顔を出してこない。なにが問題なのだろうか。
 資本? 
 それとも利権が絡んだ許認可? 
 その結果、隣国タイとミャンマーを結ぶ路線は、タイの航空会社の独壇場になってしまっている感がある。
 バンコクへはヤンゴンから戻った。最終便はノックエアだった。往路はタイエアアジア、帰路はノックエア。ともに代わり映えしないタイのLCCである。
 タイエアアジアとタイ国際航空のLCCであるノックエアが激しくシェアを争っていた頃、ノックエアは無料の飲み物と軽食サービスをはじめた。ところが今回、乗ってみると、軽食がなくなり、小さなペットボトルの水が配られるだけになっていた。
 この路線には、タイ国際航空の子会社のタイスマイルも就航している。最近、このタイスマイルがLCC並みに運賃をさげてきている。ノックエア→タイスマイル→タイ国際航空というヒエラルキーが崩れてきてしまった。ノックエアがサービス内容を変えてきたのは、ミャンマーの航空会社の影響ではない気がする。同じタイの航空会社の競争の結果である。
 ミャンマーの航空会社は、その競争の蚊帳の外にいる。


バンコクからマンダレーまで乗ったタイエアアジア。運賃は、ヤンゴン路線の倍。便数が少ないとこうなる?