下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治
就航して間もないチェジュ航空でソウルに向かった。7月半ばのことだった。運賃は往復で1万9850円。この時期、いちばん安い運賃を出していた。
韓国路線のLCCの競争が激しくなってきた。
成田空港とソウル間に、はじめて就航したLCCは、韓国のイースター航空だった。
その後、日本のエアアジアが就航。そして今年の7月4日、チェジュ航空が就航。ひとつの路線にLCC3社が飛ぶことになった。世界に就航しているLCCの密度を考えれば、珍しいことではない。以前は、どうやってLCCの席を確保するかということにエネルギーを注いでいたが、韓国路線は、どのLCCを選ぶか……という時代に入りつつある。
チェジュ航空のチェックインはユニクロ裏だった。
「ユニクロ裏?」
そう聞いてピンとくるのは、エアアジアの国際線に乗ったことがある人だけだろう。第2ターミナルの出発階に島のように並んだチェックインカウンターではない。
以前は屋外の通路だったところにできたチェックインカウンターである。特設カウンターのようにも映る。Fカウンターと呼ばれる。いったんターミナルに入り、ユニクロの脇にある通路を進むと、このカウンターに辿り着く。
ここを使っていたのはエアアジアだけだった。そこをチェジュ航空も利用することになったようだ。
利用料の問題なのだろうが、成田空港に乗り入れたエアアジアは、独自のチェックインカウンターをつくった。国内線のチェックインカウンターは1階にあるが、簡素なものだ。どこかエアアジアの孤立感が漂っていたが、国際線はチェジュ航空が仲間に入ってくれたわけだ。搭乗口もエアアジアと同じだった。飛行機まではバスである。エアアジアの引いた線にチェジュ航空が乗っている感がある。
チェジュ航空は韓国を代表するLCCである。大手財閥と済州特別自治道という自治体が共同で設立した。関空、中部などにはすでに乗り入れていたが、ようやく成田空港に入った。
特徴は預ける荷物が20キロまで無料ということだろうか。既存航空会社並みである。こうなってくると、既存航空会社とLCCの差は、無料機内食の有無ぐらいしかない。
しかし成田―ソウル間は2時間40分のフライト。有料の機内食メニューがラックに入っていたが、飲み物が中心。おそらく韓国国内線と大差がないメニューなのだろう。
際立った特徴のないLCCである。競争が激しくなると、最後には荷物代を含めた運賃に落ち着いてしまうのだろうか。
機内では、客室乗務員が、日本人客だけに、日本語のソウルガイドを配っていた。