「タビノート」下川裕治:第13回 ベトジェットはアジアLCCの台風の目?

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 12月10日。バンコクからハノイに向かうベトジェットの機内に乗り込んだ。
「……?」
 機内にはクリスマスソングが流れていたのだ。見ると、客室乗務員が赤と白のサンタクロース帽子や赤いトナカイのカチューシャをつけている。機内がクリスマス気分で盛りあがっているのだ。
 この時期、ほかの航空会社も、こんなことをするのだろうか。
 元気なLCCである。2011年12月からベトナム国内線で運航をはじめた。今年、飛行中に機内で水着ショーを行い、航空局から罰金を科せられたことで一躍、有名になった。しかしいっこうにひるんでいない。そんな空気が伝わってくる。
 今年、国際線にも進出した。ホーチミンシティーバンコク線に次いで、ハノイーベトナム線にも就航を果たした。
 タイとベトナムを結ぶLCCは、エアアジアの独占状態が続いていた。そこに参入してきたベトジェット。バンコクからハノイに向かいエアアジアは、機材の関係なのか、早朝出発。しかしベトジェットが午後2時台にスワンナプーム空港を出発する。利用者は少なくないという。
 今後、シンガポールやソウルへの就航も計画しているという。それどこころか、タイにタイベトジェットを設立し、タイ国内線にも就航するともいっている。一時のエアアジアを思わせる大風呂敷を広げている。
 いまベトナムの本を書いている。つくづく不思議な国だと思う。社会主義の国なのだが、やることがどうも、社会主義の国のそれと違う。サイゴン陥落以降、事業の国有化、農業の集団化、計画経済などを打ち出したが、どこか詰めが甘い。カンボジア侵攻後の経済制裁を受け、一時、経済は破綻状態になった。しかしその後のドイモイで、一気に復活してきた感がある。商売に関しては、タイ人も負けそうな賢さがある。
 ベトジェットにしても、社会主義のにおいが漂ってこない。それどころか、アジアのLCCもついていけないような勢いがある。
 エアアジアに一時の面白さがない。それに代わるのは、ベトジェットだろうか。

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ベトジェットの有料機内食。ベトナムのカップヌードルが50バーツ、飲み物が30バーツ