下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
シンガポール路線、最後のユナイテッド航空に乗った。6月1日のUA803便。この便が翌日、シンガポールから成田に飛んで、シンガポール線のユナイテッド航空便はなくなる。
マイレージの関係で、年に4回はユナイテッド航空に乗らなくてはならない。シンガポール路線の廃止はかなり痛い。
スターアライアンスのマイレージを貯めるきっかけになったのは、成田とバンコクを結ぶユナイテッド航空だった。しかしこの路線が廃止になり、頼みの綱はシンガポール路線だったのだが……。
かつてユナイテッド航空は、成田を基点に多くのアジアの都市を結んでいた。香港、バンコク、台北、ソウル、上海、シンガポール……。それらの路線が次々に廃止されていった。アジアとアメリカを結ぶ便を減らしたわけではなかった。成田経由をなくし、アジアの諸都市から直接、アメリカへ向かうルートに切り替えていったのだ。いまでも上海や北京、香港の空港に行くと、ユナイテッド航空機の姿をよく見る。これらはダイレクトにアメリカに向かう。成田が外されてしまったのだ。
こう書くと、すぐに日本経済の衰退に結びつける向きがある。たしかにそれも一因だろうが、いちばんの理由は、アジア各国の経済発展が急で、成田に寄る前に席が埋まるからではないかと思う。そこにより長距離の飛行が可能な機材という拍車がかかった。
最後のシンガポール行きユナイテッド航空は、ちょっとしたイベントでもあるかとも思った。この便をよく利用した人が、記念フライトで席を埋めるような気もした。
しかし乗り込んでみると、そのどちらもなかった。機内はがらがらだった。帰りの便は翌日しかないのだから当然である。なにか残務処理をこなすフライトのようで、少し寂しかった。客室乗務員も、これといった感慨もなく、淡々と仕事をこなす。パイロットの機内放送もいつもと同じだった。
予定より10分ほど早く、シンガポールのチャンギ空港に到着した。絨毯が敷かれた通路を歩きながら、「ふーッ」と溜め息をつく。こうしてユナイテッド航空に乗ってシンガポールに着くことはもうない。
さて、これからどうしようか。アジア内で残っているユナイテッド航空の路線は、成田―ソウル、香港―シンガポールだけのように思う。成田―ソウル間が廃止にならないのは、韓国の経済事情だろう。しかしその運賃はとんでもなく高い。残っているのは、香港とシンガポールを結ぶ路線?
また溜め息をつく。
変わらない機内食。味もメニューもまったく同じだった