「タビノート」下川裕治:第53回 LCC業界はIT業界?

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shimokawa

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治

 このところLCCに乗る機会が増えている。シンガポールとマレーシアの本を書くため、このエリアに就航するLCCを頻繁に利用しているからだ。月に平均すると、6回ぐらい乗っている。
 シンガポール、バンコク、クアラルンプールを結ぶ便が多い。エアアジア、タイガーエア、ジェットスター、ライオンエア、スクート……。時間帯や値段で、利用する便はまちまちだ。
 マレーシアの本を書いていて、あることに気づいた。マレーシアの輸送業界の民族構成である。
 マレーシアはマレー人、華人、インド系住民が暮らす多民族国家だ。そしてマレー人優遇策であるプミプトラ政策に傾いている。それが一因になり、輸送業界がみごとに分かれている。鉄道は国鉄色が強いためマレー人系である。バスは民間業者だから、華人経営が多い。そしてLCCであるエアアジアのトップであるトニー・フェルナンデスはインド系だ。
 その結果、鉄道が頼りにならない。遅れが多く、長距離路線は1日1、2本という頻度だ。それを補っているのがバスとLCCと思っていい。
 ではなぜ、エアアジアはここまで成長できたのか。そこには政府との関係もあったようだが、インド系スタッフのIT能力があったからのようにも思うのだ。
 同じ路線に就航するさまざまなLCCに利用するとき、予約サイトの使い勝手の差は歴然である。そして思うのだ。LCCとは運送業者ではなく、IT業者ではないか……と。
 このエリアを就航するLCCのなかで、エアアジア、ジェットスター、スクートは日本語で予約できる。やはりわかりやすい。
しかし日本に乗り入れる前のエアアジアの予約では苦労した。英語サイトなのだが、わかりにくかった。それに比べると、タイガーエアは昔からわかりやすく、予約もスムーズだった。
 エアアジアは日本に合弁の形で乗り入れたが、そのときの日本語サイトはひどかった。日本語の意味がよくわからなかった。英語サイトの直訳が多かった。
 このエリアに就航するLCCでは、ライオンエアのサイトがわかりずらい。予約ができたのか、できなかったのか。いまでも不安を抱えて予約進めている。ライオンエアの予約サイトがしっかりしてくれば、集客はだいぶ増える気がする。なにしろ運賃はダントツに安いからだ。
 LCCとはIT業界、IT航空会社といってもいいのかもしれない。

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タイガーエア。この会社の予約サイトはわかりやすい。英語でも