下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する文章著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
韓国のアシアナ航空の経営破綻が表面化した。政府も絡み、大韓航空への吸収か合併かといった話になっていきそうだ。
アシアナ航空はコロナ禍以前から、経営状態の悪化が噂されていた。アシアナ航空自体ではなく、親会社の業績がよくない影響を受けているともいわれた。そこに日本と韓国の関係が悪化し、日本路線の集客が落ち込んだ。2019年4月には、親会社が株を売却。別の会社が名乗りを挙げていた。そこにコロナ禍である。いま、航空会社の経営を引き受ける会社はまずない。株式売却の話は消え、今回の大韓航空への吸収か合併に話が進みはじめたようだ。
タイ国際航空もそうだが、コロナ禍以前から経営がうまくいっていなかった航空会社が、コロナ禍のなかでドラスティックな方向転換をみせている。
世界の動きをみると、新型コロナウイルスの被害を最も受けている業界のひとつが航空会社だろう。多くの航空会社が、政府からの援助で首をつないでいる感がある。アメリカの航空業界への支援は、最終的には2兆円を超えるのではないかといわれる。
人の移動や交易を担ってきた業界は、ウイルス感染の被害を直接受ける。そもそも交易が、ウイルスの交換と均質化を導くからだ。
中国が起源といわれる感染症にペストがある。6世紀、ビザンティン帝国の皇帝ユスティニアヌスはイタリアやアフリカに遠征し、古代ローマ帝国の再建をめざす。しかし首都のイスタンブールは何回もペストの感染を受ける。ビザンティン帝国の衰退の一因はペストだったといわれる。
同じ頃、中国には隋という国があった。何回か高句麗に遠征しているが失敗。やがて滅亡へと進む。当時の隋ではペストが流行していたことが記録されている。
同時期にユーラシア大陸の東と西でペストが流行する。原因はシルクロードだった。この道を伝って、ペストは広まっていったのだ。
シルクロードは東西文化の交易路だが、同時に感染症の伝達路でもあった。
その後、感染症の伝達は船に代わる。明の時代の鄭和は、数万人の船員を集め、アラビア半島やアフリカに出向く。この航海がペストを広めていったともいわれる。
陸路交通から海上交通へ。そしていまの航空機の時代……。いつの時代も交通手段は文化と一緒に感染者とウイルスを運んできた。そしてその文化がなければ、ウイルスの解明も進まなかった。
今回は航空業界のはじめての試練ということか。
スターアライアンスのマイルを貯めているので、アシアナ航空にはずいぶん世話になった。無料のグレードアップの恩恵も何回か受けた。すでに経営悪化の前兆だったのか