下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
バンコクからカンボジアのプノンペンまでランメイ航空に乗った。カンボジアの航空会社は不安定な状態が続いていた。いくつかの航空会社が生まれては消えていくことが多かった。
ランメイ航空も……。
そんな予感があった。しかし乗り込むと、カンボジアの航空会社とはなにかが違っていた。
席に着こうとした。通常、各席のシートベルトは、左右をはめずに座席の上に置かれている。しかしランメイ航空は、きちんとはめられている。
中国だった。どうしてそうするのかはわからないが、中国の航空会社は、すべてのシートベルトをはめて乗客を待つ。それが流儀だった。
離陸してしばらくすると、税関の申告用紙が配られた。「入国カードは?」と英語で訊いてみた。すると、すらっとした女性の客室乗務員が戸惑ったような顔をつくった。
中国人だった。しばらくすると、男性の客室乗務員を連れてきた。カンボジア人だった。
気になって機内を眺める。客室乗務員の女性のうち2人が中国人だった。そういう航空会社だったのだ。タイとカンボジアを結ぶ飛行機だが、タイ人の客室乗務員はひとりもいない。機内放送は、英語、カンボジア語、中国語だった。
中国人の客室乗務員は忙しそうだった。乗客に税関カードの書き方を伝えていた。言葉は中国語だった。
こんなに中国人が乗っている……。中国からはじまった新型コロナウィルスの感染が深刻だった。僕が搭乗したのは、今年の2月19日。新型コロナウィルスはまだ収まってはいない。中国だけでなく、感染は世界に広まっていた。日本のニュースは、連日、感染拡大を報じていた。中国は、海外への団体渡航を禁じていた。それなのに、ランメイ航空の機内は半分近くが中国人だった。この便は、プノンペン経由のシェムリアップ行きだった。
僕の周りも全員が中国人だった。しかし服装はラフな若者で、ツアー客には見えなかった。カンボジアで働く中国人かもしれなかった。
後で調べると、ランメイ航空は中国系の航空会社だった。
カンボジアは中国べったりの国である。2月5日、フン・セン首相は海外首脳としてははじめて中国を訪問し、習近平国家主席などと会談し、蜜月ぶりを強調している。そこで、「海外渡航などの極端な制限はとるべきではない」と強調している。
だからランメイ航空というわけか。実際、いまの時点で、中国人が堂々と訪ねることができるのはカンボジアぐらいしかないかもしれないが。
ランメイ航空。預ける荷物は無料だが、機内食は有料。LCCである