バルカン半島訪問記5 -スプリト(最終回)

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評論同人誌サークル「暗黒通信団」の雑文書き。
貧乏ノマド独身。英語は苦手。好きな地域は中東の砂漠。元コミケスタッフ。コテコテの理系。自称高等遊民。
詳しくは http://ankokudan.org/d/d.htm?member-j.html

 
シさんによるバルカン半島旅行記の第5弾です。
第1弾第2弾第3弾第4弾


今回で一応この連載も最終回だ。本当はもっと長々と書けるのだが、ハイライト(とひどい目にあったこと)はお伝えできたから切り上げてしまう。
無敵に近い僕に苦手なものがあるとすれば”女性”である。スプリトの宿は最初から修羅場であった。なんせ六人部屋で男は僕一人。あとはみんな女性なのだ。バックパッカーの宿というのは若い人が多いので若い女性。それを素直に喜べる性格なら、いい年こいて独身などやっていないだろう。トイレやシャワーが共同だから、荒い使い方をしてると女子軍に集団リンチをくらいそうで、どうにもやりづらい。相手が相手だからトイレ一つでも、いちいち中に入ってるかどうかコンコンして確認しないといけないし、そもそも女子というのはなんでこうシャワーにかける時間が異様に長いのか。一人で30分も中で何しているんだろうかと不思議でたまらない。お湯を流している音もしないのだし、異世界と交信でもしているのか。自慢じゃないが僕などシャワーなら5分以内で終わる。会社ぐらしの流浪民をなめるなよ。

めちゃくちゃに気を遣ってるのと極力会話を回避しているせいで特に目立ったトラブルにはならないが、代わりにものすごく疲弊した。さらに、こちらも少し負い目というか見栄というかがあって、いつもの男オンリー部屋でするような、半裸で大イビキをかいて爆睡するのがためらわれる。となると、どうも寝にくくて、朝三時とかに目が開いたりし、あまり眠れないまま朝になってしまった。七時に意を決してシャワー。女子様たちが皆様寝入っておられるスキに、そのままさっと準備をして八時から逃げるように観光開始。なんせ、根本的に女性と会話したくない。本当に心の底から苦手なんだってことをどうか分かってくれ。

スプリトの街にはディオクレティアヌス宮殿というローマ遺跡があって、たぶんこれが当地における世界遺産の心臓部だ。

ディオクレティアヌス宮殿

ディオクレティアヌス宮殿。この角度を外すとレストランが写ってしまってダサい

お掃除車

宮殿のまわりはお掃除車で掃除されてる

宿から歩いて五分という好立地で、チケットは侵入可能なエリアによって赤と青の二種類ある。当然すべて入れる赤を選択。そしてお金を払った以上は、権利を最大限行使して、すべてのスポットをカメラに収めねばならない。

まずは大聖堂。指示通りに進んでいくと、教会の祭壇の横から出てくるという、不思議すぎる構造だ。なんせ祭壇に向かって信者様が祈ってるところに、「ゃぁ(笑顔)」みたいな感じでモテない中年がヌッと現れるわけだ。

祭壇

朝日の差し込む祭壇。この右手奥から「ゃぁ」と現れるわけだ

すぐさま十字軍が編成されて無慈悲な核攻撃を受けかねない。聖堂の写真は朝日が前からさしてきて、清涼感漂う良い仕上がりになったが、実情を知れば抱腹ものである。

赤チケットだと聖堂の横の塔にも登ることができる。中空四角形の石造りで、中央部には鐘が取り付けられている。頑張って最上階まで登ると、なかなか見晴らしが良い。大航海時代に灯台守が見ていた風景がこんなんじゃないかと思った。

スプリトの港

塔から見下ろすスプリトの港。宿は右奥のほう。青果市場は左手前

アドリア海

塔から見るアドリア海

宝物殿もなかなか面白い、一部屋だけだが、朝なので観光客は誰もおらず、暇そうな係員が喋りたくてウズウズしていて、入るなり人感センサーで起動した自動音声のように強制的な説明が始まった。

宮殿地下

宮殿地下より上の建造物を眺めた図

とりあえず部屋の右側にある聖人の人骨は三世紀の人で、何か戦争の結果川に投げ込まれたけど市民によって引き上げられたという伝説があるらしい。無駄に増えるトリビア。あとはその聖人をかたどった銀細工とか、立派な服とかが色々展示されている。なんか名前は忘れたけど偉い人だということはわかった。写真撮影不可。

他にはジュピターの像が飾ってある部屋とか、地下の祭壇にも行ける。地下神殿は入るなり妙に蒸し暑くて、どこぞのハマームかよと思ってしまう。このあたりで第一陣の観光旅団がやってきて、ツアコン様の流麗な英語で至福のときを過ごしていた。なぜか黒猫多し。

この宮殿は総じて、ローマ遺跡としてはなかなか立派である。朝っぱらから係の人が掃除マシンで掃除していたりしてメンテナンス具合も良い。こういう遺跡も政変でISISみたいなテロリストに乗っ取られたら無慈悲に破壊されてしまうのかと思うと、なんともブルーになる。パルミラって、あれとても良い雰囲気の遺跡だったんだよ……。

女子たちに超配慮するあまり朝も食べてないわけで(ついでにいえば夜も食べてないわけで)空腹がきつい。ここは青果市場も有名だというので、宮殿観光を終わらせると、市場で健康志向を発揮し、トマトやバナナやオレンジを買い込んで、その場でバリバリ食べ干した。なんせすごく安いので値段を気にせずどんどん食べられる。ちなみにそれは朝メシで、昼メシは宿の人オススメの店でブラックリゾット(貝のリゾットで色が黒い)を食った。円換算で1200円くらいと激高いのだが、昼間から無職っぽいおっさんがくっちゃべってる大阪ミナミのイケてるお好み焼き屋みたいな店であった。潮風とともに実にいい雰囲気を出していて、味も良い。アドリア海なんだから、たまにはアドリア海料理を食わないとな。

そろそろ疲れて宿に戻ると、韓国人ともう一人何人か分からない東洋系の女性二人が熱心に化粧していた。化粧もまたやたら時間がかかるものらしい。30分くらいも熱心に鏡と対峙し、銀細工でも作るかのようにあちらこちらを補修していく。そしてとにかく部屋中に化学物質の香りが充満する。きついなぁと思って部屋の外でネットをしていたら、二人で連れ立って大急ぎで出ていった。女子ってほんと、全方位的に大変だな、と思う。

11時半のバスに乗ろうと思って11時ちょうどに宿を出たら、バス停では11時20分にバスが出るとか云われて、慌ててとび乗った。これでスプリトは終わり。なんだか尻切れで申し訳ないのだが、出発時間がいい加減な割に、お値段はガッツリ西側価格で、首都ザグレブまで2000円くらいもする。経路は単純極まりなく、高速道路をひたすら北上するだけである。

旅はこの先、ザグレブ(失恋博物館は必見)、プリトヴィツェ湖群国立公園(色がバスクリンみたいな池の数々。世界遺産)、ブダペスト(恐怖の館は見よう。クロアチア語が彫られた教会も良い)と続くが、それらの話はまたの機会にしたい。ご愛読に感謝!

失恋博物館@ザグレブ

失恋博物館@ザグレブ

ザグレブ市内の道

ザグレブ市内の道。街灯が天体みたい

プリトヴィツェ湖群国立公園

プリトヴィツェ湖群国立公園。加工無しで本当にこんな色

ザグレブ市の教会内に彫られたクロアチア語

ザグレブ市の教会内に彫られたクロアチア語。ほぼラピュタ

恐怖の館

恐怖の館@ブダペスト。地下鉄降りて5分。目立つ建物だ…

聖イシュトヴァーン大聖堂

聖イシュトヴァーン大聖堂@ブダペスト