tabinoteワタベです。
先日「世界ダークツーリズム」が洋泉社より刊行されました。
世界ダークツーリズム
ダークツーリズムとは戦災や災害跡地、虐殺現場や収容所、強制労働など死や悲劇の生じた現場をめぐる観光のこと。
角田光代さん、古市憲寿さん、森 達也さん、蔵前仁一さんなど硬軟とりまぜた豪華な執筆陣で、写真も豊富。tabinoteメルマガでもおなじみの我らが下川裕治さんは南京、ハルビン、ハノイと3ヶ所寄稿されています。
さて、このガイドの特徴は現地までの行き方ガイドがついていること。リサーチはtabinoteが担当しました。
この本の発売を記念して、いくつか「負の遺産」に関する旅行記を掲載してきました。
・第1回 南京大虐殺記念館
・第2回 キリングフィールド(カンボジア)
・第3回 サラエボ
・第4回 ザクセンハウゼン強制収容所(ドイツ)
一連の旅行記も今回が最終回になります。
Facebookのtabinoteページから上記いずれかの旅行記リンクをシェアいただいた方の中から抽選で3名様に「世界ダークツーリズム」をお贈りします。(終了しました)
さて、最終回はtabinoteワタベがお届けします。
今年の2月にドイツ北部の「ザクセンハウゼン強制収容所 ( Sachsenhausen concentration camp ) 」を訪問してきました。
ナチスドイツ時代の強制収容所といえばアウシュビッツが有名です。アウシュビッツはポーランドの南部にあり、日本からはやや行きにくい立地です。ザクセンハウゼンはベルリンの北およそ40kmと近く、市街地から鉄道やバスを乗り継げば一時間程度で到着します。
行き方
ザクセンハウゼン強制収容所の所在地はブランデンブルク州オラニエンブルク(Oranienburg) 。
オラニエンブルク自体は駅近くに小さな店が点在する程度のこじんまりした街です。
オラニエンブルク駅へはベルリン中央駅から近郊鉄道SバーンのS42線に乗って…というのがガイドブックに載っているルート。実際にはGoogleマップのルート案内で出てきた快速列車RE ( Regional Express ) で向かいました。
車内は広く、平日昼間の下り線ということもあったのかガラガラ。
車窓からの景色ですが、ベルリンを離れるにつれて
市街地→住宅地→工事現場→資材・採石場→林→荒れ地・・・
という感じでどんどんもの寂しくなっていきます。
今年のベルリンは暖冬とのことで、最高気温5度・最低1度程度とまあ東京より少し寒い程度。
しかし天候は悪く、車窓を雨粒が流れていきました。
こじんまりしたオラニエンブルク駅に到着。804番もしくは821番のバスで収容場に向かいます。
帰りのバスもそれほど本数が多いわけではないので、降車時にバス停の時刻表を撮影しておくといいでしょう。
バスを降りると収容所のエントランスにつながる通路が見えます。
平日昼間のこの日は観光客もごく少なく、来場者は主に学生たち(おそらく授業で見学に来たような高校生)でした。実際、施設にはユースホステルが併設されており教育・研修の場所として使われているようです。
概要&展示の構成
施設は毎週月曜休館(屋外展示などは無休)、開館時間はいわゆるサマータイムの3/1~10/14が8:30~18:00、10/15~3/14は8:30~16:00です。入館無料ですが、オーディオガイドの貸出料が3ユーロ、案内マップが1ユーロです。
施設のふかん図は以下のようになっています。
まずは入り口と資料館的なビジターセンター。カフェも併設されています。
その奥が収容所の本体です。扇状にバラック(寝泊まりの棟)が並んでいるのですが、現存するのは数棟です。その他、調理施設、洗濯場、医療施設、刑場などが扇の中や外側に配置されています。施設の周辺は高い塀で覆われています。
最奥には慰霊塔と、ソビエト収容キャンプ跡(後述)があります。
ナチスの強制収容所には2種類あるそうです。
1つはユダヤ人やロマ、共産主義者、捕虜、政治犯などを対象とした矯正・強制労働施設で、これがいわゆる狭義の強制収容所 ( Concentration camp )。もう1つは絶滅収容所という収容者の速やかな殺害そのものを目的とした絶滅収容所 ( Extermination Camp )と呼ばれるものです。ユダヤ人は当初強制収容所送りでしたが、じきに絶滅収容所に送られることになりました。
絶滅収容所の代表格はやはりアウシュヴィッツ強制収容所で、100万人以上が殺害されたとされています。
ザクセンハウゼン強制収容所は絶滅収容所ではなく狭義の強制収容所にあたるようですが、それでもガス室や処刑場をそなえた非人道施設。ナチス時代に20万人以上、ソビエト収容キャンプ時代に6万人が収容され、数万人が亡くなったそうです。
(画像:Wikipedia;白抜きドクロマークが絶滅収容所、■が強制収容所)
ザクセンハウゼン収容所は、歴史の古さ、首都ベルリンへの近さ、規模の巨大さなどから、その後各地に設立された収容所のモデル的な存在だったとのこと。
そして、ナチスドイツ降伏後にソビエトはこの収容所を接収し「ステーキけん」のように居抜きで再利用。やはり政治犯などがガンガン投獄されました。上でちらちら出てきた「ソビエト収容キャンプ」とはそのことです。
入り口~バラック
さて、入り口で案内マップを買い、オーディオガイドを借りて施設へ。
この時はまだオーディオガイドが有用だと思っていました。
有名な「Arbeit Macht Frei」(働けば自由になる)の表示があります。
まずは隣り合って保存されている2つのバラックへ。
こちらは実際の棟内の設備、ベッドやトイレなどの展示と、資料館的な展示があります。
この時、見学の学生が多く記憶が曖昧ですが、片方のバラックは2層構造で地下階がありました。
当時の収容所の様子や歴史的な経緯、収容された人のプロファイルなど、おそらくシーズンごとに展示も変わっているようです。
展示の情報量が多く、すでにこの時点でじっくり見ていくと終わらなそうな感じがただよいます。
バラックを出るとプリズン(懲罰棟)があります。
当時の牢獄を再現しており、資料展示もあります。
外には三本の木柱が立っています。収容者を後ろ手にしばって宙づりにし、殴ったり放置したりしたそうです。
こちらは拷問に使われた台でしょうか。
調理場~病理棟
プリズンから調理場に移動します。
外を歩いていると、この地がベルリンよりも数段寒いということがだんだんわかってきます。
早朝ベルリンを出たときは平気だったのに、このオラニエンブルクでは昼近くになっても奥歯がガチガチなり出すレベル。
この日は雨がパラつく曇り空で、収容所は遮るものない吹きっさらし状態。
見学の高校生たちも風に身を縮めていたので、現地でも相当寒い日だったと思われます。
「世界ダークツーリズム」は古市憲寿さんのアウシュビッツレポートではじまります。
陽光の中で見た収容所は意外なほどのどかだったと書かれていましたが、こちら冬のザクセンハウゼンは荒涼とした灰色の世界。この地を薄い囚人服と素足同然の足で歩かされた収容者の境遇を考えずにはいられません。
調理場につきました。といってもテーブルのようなものはなく、寒々としただだっ広い空間がひろがっています。
ジャガイモを洗う場所?
足早に次の施設、病理棟( Pathology Building )へ移動します。
途中にある巨大な慰霊塔です。
病理棟…というとあまり気持のいい展示ではないだろうな、と思います(ここには気持ちいい展示なんてないのですが)。
はたして、寒々しいタイルの台が並んでいました。
生きている人を乗せる台ではなさそうです。
この辺で、キリがないのでオーディオガイドを使わなくなりました。
Z区域
施設内の建物同士は結構離れており、そのつど寒風に吹かれ、身を縮めて歩くことになります。
なにしろこの収容所の面積は東京ドーム40個分もあるので…。
また、建物内も通路が狭かったり階段があったりして、地味に疲労がたまってきます。
調理場の後でソビエト収容所を見る予定でしたが、寒さで凝り固まった身体で移動するのがつらく、スルーしてしまいました。
いいかげん帰りたい気持をおさえ、最後の展示「Z区域」に向かいます。
施設の西側に壁がそびえており、その向こう側にZ区域があります。銃殺処刑場 ( Execution Trench )、ガス室、埋葬現場、慰霊施設などが固まって並んだエリアです。
ここではあまりカメラを構える気になれませんでした。
唯一撮ったのがこの写真です(ガスシャワー室)。
ガス室の隣には薪を貯蔵する巨大なスペースがありました。遺体を焼くのに使われていたそうです。
見学終了~カフェ
ようやく見学も終わり、入り口の建物に戻ります。
日本語のガイドがあるかどうか聞くと、コピーされた冊子をもらいました。
併設のカフェでホットドリンクを頼み、身体をあたためます。
いやー、もうヘトヘト…。
カフェの隣もやはり資料館になっており、収容所の歴史などをコンパクトにまとめていました。
こちらも定期的に企画を入れ替えているかもしれません。
再びバスに乗り、快速列車でベルリンに戻りました。
--了--
ナチス時代の収容所は国家や財団、ボランティアにより運営されており、おそらくすべてが無料で入館できます。
日本から行きやすい施設としては、今回ご紹介したベルリン近くのザクセンハウゼンの他、ミュンヘンからおよそ15kmに位置するダッハウ強制収容所があります。
アウシュビッツ強制収容所があるのはポーランドのクラクフ。日本からはワルシャワや近隣国経由でクラクフに入り、バスや現地ツアーで向かうことになります(クラクフからおよそ片道1時間半~2時間)。