下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
空港で航空券を買う──。LCCが空飛ぶ路線バスを標榜するなら、ここまでいかないとだめだと思っている。それを阻んできたのは、直前になると運賃があがるという設定だった。しかしLCCの便数が増え、一部の路線では、その設定は崩れつつある。
タイのLCCにその傾向が強い。便数が多いバンコクーチェンマイ、バンコクーウドーンターニー、バンコクーハジャイなどは、直前に空港で買っても高くはならない。事前にネットで買う必要がなくなってきているのだ。
チェンマイからバンコクに戻るときも、僕は事前になにもしなかった。ふらっと路線バスに乗る感覚でチェックインフロアーに入った。そこには、タイ・エアアジア、ノックエア、タイ・ラオエア、タイ・ベトジェットエアが発券オフィスを構えていた。
窓口には出発時刻は掲示されていた。いちばん早い便は、タイ・エアアジアだった。運賃はタイ・ベトジェットエアが安かったが、4時間後のフライトだった。運賃差は300バーツ、約1000円。バンコクに早く着きたかったのでタイ・エアアジアにした。
出発30分前。発券できるのかとも思ったが、スタッフはなんの疑問もなく、手続きを進める。発券カウンターには数人の列ができていたが、皆、同じ便の航空券を買おうとしていた。
直前になっても運賃が変わらないことをタイ人も知ったのだろう。航空券は空港で買う人たちが増えているようだった。タイのLCCは路線バスに近づきつつあるのだ。
発券作業は手際よく進み、僕は運賃を払った。スタッフは僕に搭乗券を渡してくれた。それを目に、「このほうが楽だな」とつい呟いてしまた。
僕が受けとったのは搭乗券だったのだ。タイ・エアアジアのウエブチェックインも必要なく、それを自分でプリントする手間もいらないのだ。発券窓口で、いきなり搭乗券まで進んでしまう。
預ける荷物がなかったので、そのままセキュリティーチェックを受け、搭乗待合室に進んだ。
10分ほど待っただろうか。搭乗開始のアナウンスが流れた。
チェンマイ空港のターミナルに入ってから30分もたっていなかった。これだけの時間で発券、支払いが終わり、搭乗まで進んでしまう。スムーズだった。
この味を覚えたら、事前の予約はばからしく思えてくる。もっともキャンペーン的な特別に安い航空券は事前予約の世界。しかしちょっとチェンマイ……の感覚で訪ねるなら、空港で発券だろうと思う。空港は限られるが、LCCはここまできた。
並んでいるのは皆、直前発券組