下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年、長野県松本市生まれ。旅行作家。新聞社勤務を経てフリーランスに。『12万円で世界を歩く』(朝日文庫)でデビュー。アジアと沖縄、旅に関する著書、編著多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』(双葉社)で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。近著に『沖縄にとろける』『バンコク迷走』(ともに双葉文庫)、『沖縄通い婚』(編著・徳間文庫)、『香田証生さんはなぜ殺されたか』(新潮社)、『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)、『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)、『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)がある。
たそがれ色のオデッセイ BY 下川裕治
ロストバッゲージというトラブルがある。預けた荷物が、目的地の空港に届かないことをいう。そんなトラブルには遭ったことがない、という人は多いかもしれない。しかし僕は2年に1回はロストバッゲージの憂き目に遭っている。
1年に40回以上は飛行機に乗る。つまり80回乗って1回の割合になる。これが多いのか、少ないのか……。
ロストバッゲージというと、預けた荷物が紛失してしまうと思う人もいるかもしれない。しかしなくなることはまずない。その便に積み忘れたたり、ほかの便に乗せてしまったことが原因のトラブル。飛行機というより、空港のミスの可能性が高い。次の便に乗せられることが多く、早ければ翌日には届く。まあ、場合によっては1週間近くかかることもあるが。
日本に帰国したときは自宅に届けられる。海外では、泊まっているホテルに届けてくれる。
しかし荷物がないとかなり困る。気候が違う場合は着るものがない。ビーチリゾートに行った場合、水着がなかったりする。洗面道具がないと、化粧もできない。ビジネスマンが書類を入れてしまい、困った話も聞く。
どうしたらロストバッゲージを防ぐことができるのか。妙案はない。飛行機会社の選択といっても、原因は空港にあることが多いから、最終的な選択肢ではない。日本航空や全日空に乗ってもロストバッゲージはある。乗り継ぎ時間が短い便を避けるという案もあるが、それで完全に防ぐことができるわけではない。
最終的には自衛しかないというのが、僕が辿り着いた結論だ。預ける荷物には大切なものを入れないこと。荷物が届かない場合を想定して……ということになるが、そこにも限界がある。根本的な解決策は荷物を預けないということになる。
その発想はLCCに通じる。LCCは預ける荷物が有料という場合が多い。勢い、荷物を減らして機内持ち込みにする傾向が強くなってくる。ひょっとしたら使うかもしれないようなものはできるだけ省く。最近はほとんどのものが現地でそろう。同じ機能のものでも軽くて小さなものを選び、衣類もできるだけ減らす心構えということになるだろうか。
既存の航空会社に乗るとき、せっかく無料で荷物を預けることができるのだから……と思ってしまうが、LCCの感覚で乗ったほうがトラブルが少ないことは事実だ。
最近、僕は既存航空会社でも、荷物を預けないことが多い。僕のなかでのLCC効果ということだろうか。
北京空港。ここ数年のロストバッゲージ回数がいちばん多いのは中国国際航空。北京空港を利用した場合だけで、ここ5年ほどで3回