シ
評論同人誌サークル「暗黒通信団」の雑文書き。
貧乏ノマド独身。英語は苦手。好きな地域は中東の砂漠。元コミケスタッフ。コテコテの理系。自称高等遊民。
詳しくは http://ankokudan.org/d/d.htm?member-j.html
個人的な話だが、まぁ聞いてほしい。
随分前に徒歩で東京駅から京都駅まで東海道本線沿い500kmをひたすら歩いたことがあった。やった、これで東海道を徒歩で踏破だ、と喜んでいたのだが、某鉄道オタクがボソッと呟いたのだ。「東海道本線の終点って京都でも大阪でもなくて神戸なんだよね」と。そう、街道としての東海道は京都五条大橋でいいのだが、鉄道としての東海道本線は神戸駅が終点なのである。だから「東海道本線を踏破」というなら、京都駅から神戸駅まで直線70kmが残っている。どうも煮え切らない。そこで去年の3月に実行すべしと東京発京都行きの往復夜行バスをとったのだが、新型コロナで社会的に行けない状況になってしまった。そのバスの払い戻しポイントが今年の3月で期限を迎えるので、まぁ関西はこの時期緊急事態宣言もあけていたし、いいんじゃないかなぁと思って、今回、満を持して決行である(なおこれを書いている時点で、大阪は再び緊急事態宣言になっている。まったく新型コロナは一寸先が闇である)。
1日目
朝6時にWiller Travelのバスは京都駅八条口についた。すかさず京都駅のロッカーに荷物を入れる。こんな時間、宿は空いてないしロッカーならまだガラガラだ。タブレットとバッテリ、水といった最小装備だけもって歩き始めた。荷物を軽くすることは大事である。出発時刻は6時26分。人によるだろうが、だいたい1日に5時間、20kmくらいが徒歩の限界だから、3等分して今日は高槻市かその先まで行ければ良い。
経路は基本的にGoogleMapに沿う。真っ直ぐ南下して鴨川沿いに歩く。見るとなかなか同じフォーマットの家がズラッと並んでいたりして面白い。リバーサイドといえば風光明媚な感じもするが、なんとなくあまりリッチそうではないなぁ(失礼)。
道端にふと50円の激安自販機などがあって、思わず何があるのだろうと見てしまったが、サンガリアのコーヒーが並んでいた。関東の量販店では20-30円くらいで売られているものなので、電気代も考えればかなり良心的な自販機と言える。お気持ち的に1本購入。ああ、果てしなく自然飲料を追求しているなぁ。
鴨川は桂川に合流し、阪急の大山崎の駅を過ぎたくらいで新水無瀬橋という橋があった。明らかになにか落書きなのだが、サンスクリット語に見えなくもないし、何なのかわからない。
11時半くらいに高槻市の駅についたのでいったんここで休憩。駅近くにあるBigBoyで昼食である。お気持ち的にダイエットしたいこともあるので、焼き肉食べ放題なぞではなく、野菜食べ放題をチョイスだ。なお「食べ放題」は譲れない。だいたい夜行バスで徹夜気味なのに強行軍で5時間歩いたら、ランチを食べて急速に眠くなってしまった。小一時間うつらうつらしてから、13時半過ぎに再開。かなり元気になったのでもっと南下する。時々ザッと降る雨に翻弄されつつも、阪急と安威川が交差するあたりでは、謎の橋の残骸などがあって面白かった。
この日は結局、17時くらいまでかかってJR茨木駅まで歩いて終わり。立派な駅である。京都駅に戻って荷物をとってから心斎橋のゲストハウスに直行。大阪名物のスーパー玉出が近くにあり、36円の豆腐を4丁も食べて超回復を狙ったのであった。
2日目
午前中は打ち合わせがあった。いや、単なるオフ会なのだが、駅至近のワーキングスペースでコーヒーなど頂いていたら、打ち合わせと言わなくてはいけない。ノリでJR大阪駅近くのお好み焼き屋に行き、満腹になってからスタート。わざわざ大阪駅から茨木駅まで鉄道で移動してから歩くのは「何をやってるんだろう」と思わなくもないが、そもそも徒歩で長距離を歩くという企画自体が身を張ったネタなんだから、そのあたりに妥協してはいけない。13時20分にJR茨木駅をスタートなのだが、正直昨日の疲れが残っている。足が痛い。JR茨木駅は東口は立派なのだが西口は小さめで、出てから線路沿いにイオンモールの裏を通って大きな道に出れば、あとはひたすら南下するだけである。なかなか広く立派な道で、途中には数々のコンビニや、スーパーやかっぱ寿司などが並んでいて、食に困らない。むしろ誘惑満載街道なので、どこにも寄らずに歩き続けるのがすごく修行していると自分で思う。岸辺駅のあたりには国立循環器病研究センターという病院があった。縦に細い窓がたくさんついている独特なデザインだ。駅の近くで、心臓が悪い人でも通えるよう配慮しているのかもしれない。
途中一つ道を間違えて裏道を通っていたら「元始神教吹田本庁」なる宗教法人があった。宗教系の建物はやはり雰囲気が独特で、否応にも立ち止まってしまう。どんな教義なのかは全くわからないが、道を間違えたために見つけたスポットというのは一期一会な気がするので一応写真を撮っておいた。
そして、そのすぐ先にあるのが、巨大なアサヒビールの工場である。道挟んで反対側が吹田駅なのだが、とにかく巨大で駅は全く隠れて見えない。コロナ騒ぎが終わったらぜひ試飲に行きたい。
ここで大きな道と別れ、西へ向かって住宅街の毛細血管みたいな道を進む。建物とブロック塀の間の1mもないような道を進むと、気分はほとんど猫である。こういう道を平気で推薦してくるGoogoleMapは「強い」と言わざる得ない。
レゴスクールとか、そういうものがスクールになるのかと驚きながら、無事阪急塚口駅に着いたのが17時23分。午後開始なので2日目は約4時間であった。早めに宿に戻り、大量の仕事メールをさばいて寝る。
ちなみに高速道路の下に作られた数々の公園は興味深い。何か土地の有効利用をしたくても上が高速道路ではうるさくて商売にならないから公園にしました、的な感じのナンチャッテ公園がたくさんある。そういう公園はとにかく安上がりで、遊具の類がない。「名神豊津遊園」という看板のところなどは、砂地に謎のオブジェが二つ埋め込まれているだけで、「みんなであそうぼうたのしいひろば」と書かれても、これでどうしたらいいのか困惑する。ちなみに少年少女は一人もいない。「あそぼう」に対する革新的な創造性を試されているような土地である。
3日目
朝9時7分の時点で阪急塚口駅に降り立ち、阪急線沿いに西進開始だ。隣駅である武庫之荘駅前には「これは秘密にしませんか」と書かれたパン屋があり、メルヘン全開で突っ込みどころしかないのだが、味のほうについて食べログ評価で3.06らしい。いささか出オチ感はあるが関西なので良しとする。なお写真は許可を得て撮った。
その武庫川なのだが、橋から見ると川の中央部だけに特別に水路のようなものが作られている。上流側から見ると全く意味不明だが、ひょっとすると川に遡上して産卵する系の魚さん向けだろうか。
基本的には都市部を真っすぐ歩いているだけなので、田舎にありがちな強烈なロストワールド感は全然ないが、仏教なのに教会みたいな雰囲気の芦屋仏教会館とかデパートが撤退してロゴが消えたビルなどは面白いと思えた。このあたりは個人によって感じ方が違いそうなので、あまりプッシュもできない。
お昼はフォルクスのランチサラダバーだ。定番のBigBoyと隣接していて少し迷ったが、BigBoyは初日に行ったのでフォルクス。1時間も掛けてモサモサ食べ、そしてまたどんどん西へ歩くのである。
18時3分、無事にJR神戸駅着。
9時間もよく歩いたと思う。これでやっと東海道全区間踏破だ。全体的に楽しそうに思えたかもしれないし、実際ハイになって楽しいのだが、決して「楽」ではないことは明記しておきたい。三日目だけで4万歩を越え、足裏には血豆ができたし、靴も履きつぶした。先は穴があいて、もうゴミ箱行きしかない。しかも体重は全く減らない(筋肉がついたせいではあるが)。
それでも、これからも歩き続けるだろうと思う。そこに未踏の道がある限り。