「柳下毅一郎のアウト・オブ・ディス・ワールド」柳下毅一郎:第2回 

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柳下毅一郎(やなした・きいちろう)

1963年大阪府生まれ。英米文学翻訳家・映画評論家。多摩美術大学講師。訳書にR・A・ラファティ『第四の館』(国書刊行会)、アラン・ムーア/J・H・ウィリアムズIII『プロメテア 1』(小学館集英社プロダクション)など。著書に『新世紀読書大全』(洋泉社)、『皆殺し映画通信』(カンゼン)など。編書に『女優林由美香』(洋泉社)など。

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柳下毅一郎のアウト・オブ・ディス・ワールド 第2回

注:以下の記述はすべてフィクションであり、現実の出来事とは一切関係ありません。

 というわけでとりあえずホテルにチェックインすると近くにあったEasy Timesというコーヒーショップに直行。いちばん高いジョイントを一本買ってみる。9ユーロ。で、これを吸ってみたらものすごい勢いでいろんなものがきれいに見えるようになってきた。いやー最近の葉はいろいろと凄い。とりわけオランダは合法化されてからものすごい勢いで品種改良が進んでおり、現在のマリファナは60年代の原産種の4倍とか5倍とかのTHC含有量になっているらしい。もはやアカプルコ・ゴールドとか言ってる場合じゃないのだ。
 いい気分になってきたのでMelkwegに出かける。今夜はミラばあちゃん七〇歳のバースデイ。ミラちゃんは”Hash Queen of Amsterdam”だそうで、アムスで60年代からハシッシの精製をやってる筋金入りのヒッピーばあちゃん。ビートルズ縛りのDJに合わせて元気に踊ってました。この日は効果が切れてきたところで退散。ホテルがLeidenplatzから歩けるところだったから楽だった。

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連日パーティがおこなわれるMelkweg

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Melkwegのホールは禁煙だが、よく見ると「Smoking Tobacco is prohibited」と書いてある。つまり煙草以外の煙は…

 ところで、今回試してみたかったことがひとつある。それがvaperである。火をつかうのではなく、熱によって気化させた有効成分だけを吸うことで、タールをはじめとする体に有害な物質を吸わずにいいことばかりが起きるという電子機器。煙が苦手な人間には救世主か? ちょっと試してみたかったので、中央駅近くのスマートショップで買ってみた。
 スマートショップというのは“ヘッドショップ”と言われるマリファナ吸入の道具をいろいろ売ってる店である。スマートドラッグが流行ったころにこの名前になった。ただしコーヒーショップとは違うので肝心のブツは売ってない。かつてはマジックマッシュルームも扱っていたのだが、今は違法になったのでマジックトリュフと呼ばれる幻覚性キノコを扱っている(未体験)。
 さて、そんなvaperだけど、電子式なのでまずはUSBで充電。
 充電ができたらハッパを詰めてスイッチを入れる。とすぐに香りが出てくるんでそれをスパスパやる……のだが、やはり恐れていたとおり、いまいち効きが悪い。素面の状態からギンギンに効くまで吸おうとするとかなり時間がかかってしまうのが難点。あと、これなら街で吸ってても気にならないかと思ったけど、こんなもんをチビチビやってると逆に目立ってしまう。まあそういうわけなんで、抜けてきたときに足してくぐらいしか使えないかなあという印象であった(なお大容量の据え置き式もあって、そっちはビニール袋いっぱいくらいに無煙のナニを出して一気に吸う、みたいな使い方をする。これは効く)。その後はもっぱら安いパイプでガバガバ吸い、抜けてきたらヴェイパーで追加、みたいな使い方をしていた。

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vaper USBで充電する

 さて、アムステルダムのマリファナと並ぶ観光二本柱と言えばセックス、つまり飾り窓である。オランダはドラッグとともに、売春をもっとも早い時期に合法化した売春先進国でもあるのだった。いわゆる飾り窓、Red Light Districtは旧教会のまわりなのだが、教会周辺はかなりヤバい感じ(=プランパー系)なので、そういう趣味じゃない人は運河のほうにいくと東欧系の美女とかがいます。なお、教会脇にはヌードの女性像が立っており、これは売春婦たちの守護像だという。誰が作ったのかわからないのだが、ある晩突然立っていた。当初市当局の手で撤去されたのだが、意外にも人気で元通りにしてくれという要望が多く、元に戻されたのだという。
 とりあえずぼくは気分も良かったので、ピンクの象さんでおなじみCasa Rossoに突入。ここはたいへん健全なお店で、つまりストリップクラブ。と言っても踊りを見せるわけじゃなく、本物のセックス、つまり白黒ショーを見せる店である。まあセックスやるだけだろ、と思っていたのだが、実際見てみると音楽に応じて流れるように体位を変えてゆくカップルの技量に感心しきり。男が主導してセックスを進めていくのだが、体位を変えるタイミングは無言のまま尻へのスパンキングで指示してゆく。まるで鞭を鳴らして馬をあやつる騎手のようにも見えるのである。ちなみにソロの女性もいて、それはいわゆる花電車的な芸をしてました。踊りが雑な分、芸はいろいろあります。しばらく見ていると中国人のおばさん団体がぞろぞろとご入場して、もともとなかったエロ気分が一気にゼロへ。昔は日本の農協、今は中国のドラゴンレディなのだなあ。

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娼婦の守護像

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Casa Rosso 実は何軒もチェーン店がある。